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作品 - 20070817_171_2279p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


[教室が蝉]

  香瀬


[教室が蝉]





.        黒板の前に立って、教室のなか、窓のない教室のなかは、ドアもなく、取っ手もないので、
何もつかむことができない、そんな取りとめもないことを筆跡に託す。



.                                活字と変らない彼方の会話を、私は
一つ一つタペストリーにするために縫い合わせていたところなのですよ、えぇ、その流行りのフォントで話
しかけてくるのをやめていただけませんか。



.                    木製の机に備え付けられた金属の義足は重たいよね、はにかみ
ながら云うもんだから私は、いつだって抱きかかえることができるように鍛えたものです、いつでも座って
いただいて構いませんよ。



.            それぞれの椅子にはそれぞれの座り方があるので、はい、座りなおしてください
ね、発言する時には手を挙げるように云ったはずです、(窓の外では)(窓はないのに)誰も入ってこられ
ない行列。


.    鍵をかけておきました、ドアに、そのドアにねじこんでやりました、ので、ひらいても構いません
が、入ってこられるでしょうか、黒板に蝉の絵を書くのだけは、早めていただきたい。



.                                       、は止めていただき
たいのは、/爪を立てて声を出す真似をすること/止めて、患ったままになった機械の窓に螺子が、螺子を
書いたチョークで、ああ、またこの窓も開くことはできない白い粉ですから。



.                                    蝉は取っ手の内側にいる生
き物だから、彼方も(そして私も)まがまがしい、強いられた内臓のデッサンを(チョークで)行なわなけ
ればなりません、外では夕日が(窓はないのですが)ドアを焼いているというのでしょうね。



.                                           空調は壊れ
たまま、焼かれた空気を吸った私たちの肺も、灰に、焼けてしまったのですね(彼方!)羽を持つ生き物で
あったならば、この空気を啼くこともできたのかもわかりません、(抱いて、と)。



.                                     黒板はとけて、蝉は、焦
げ臭い私の(そして彼方の)鼻腔を侵す、(お菓子(を)ください)排気を覚えておくことだけで、今はい
いのだ。



.   時計の針はいつも正午です、椅子から立ち上がることで残った靴下、彼方のフォントからかけ離され
た(足蹴にされた)床、這う、彼方、なぜ、そこに、いるの、でしょう、か。



.                                   足蹴にした(その脚部の付け
根に大きな穴がありました)私は(彼方を、)踏み、床は、何処までも私の顔をしていました、彼方が這う
から。



.  本当はそんな生々しい(生易しい)、教室の、とけた黒板に蝉が、今はもう内臓も(描かれているから)
忘れました、忘れてしまいました、思い出すために。



.                         窓はなく、彼方が、私は踏まれている、ドアの取っ手
を、あの吐き気を催すフォントは排気したい、ひねって、刻まれた(外にいた人々の行列は、はたして、)(
足音も跡もなく)消えてしまった、誰も彼もが。



.                      蝉が(私は教室、鍵をかけて、ドアはないのに、窓に残る指
紋をふいて、向こうの景色は見えず、四方はすべて彼方、壁ですので、何も見えず、聞こえず、臭えず、床も
天井も違いなんてあったかしら、内臓のデッサンがとける、フォントもとける、口をひらいても穴はなく、味
わえず、感ぜず、ただ淡々と)、啼く。

文学極道

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