『理論』
なにのたうちまわってやがんだか。だるーい独楽が止まる事を知らねえ。賭けるでもなし、いっちょまいの男が四人現場でウンコ座りして、だるーい独楽を黙ってみてる。が、一人これ独楽かなーとおもってる男が思い切って言ってみる。これ独楽だよなー。ああ、独楽だ、と一人がこたえる。だがよ、小一時間、止まりそうで止まらないてえのは独特の独楽だーねと言う。元来の独楽じゃねーんだろうなと兄貴がこたえる。ほら、幾分浮いちょるよと兄貴が屈む。えー、と三人が屈み。確かにと三人が口を揃える。これ最初に見つけたの、誰だー。あー、俺だーと手を挙げた男が、最初っから、だるーく廻ってたーと笑う。もうそろそろ、家、ぶっ壊さなきゃなんないけんども あー さすがに きになるー と三人は立ち上がろうとする。その時アルバイトが言う。これは物理的におかしいと思うんですよね。あー、さすがインテリだ!と兄貴が言うと、こいつ馬鹿にしてんですよね俺たち、と言って、やっちゃいますかこいつと立ち上がるのを制して兄貴が言う。なーつ、君、これがどう物理的に可笑しいのかを僕たちに説明してくれないだろうか。アルバイトは、えー、みなさん ご案内の通り、この物体は先程より宙に浮き続けております。さて、推進力はなんでしょうか。あのだるーい回転でしょうか。ノンです。重力と言う呪縛をいとも容易くといているこの物体は、理論上在ってはならない存在です。これは、何かの啓示なのか。否、ひょっとして、これは、永久機関?ああ 僕らは幸運にも、奇跡に立ちあっているのです!もー家なんかぶっ壊してる場合じゃない。これを誰かに知らさなければとアルバイトは砂塵と共に走って去る。ノンだってよと、一人が言う。啓示だってよと、一人が言う。理論上在ってはならない存在かー、と兄貴が言う。ならば、無いんだな、これ、と兄貴が言う。無い、無い、と一人が言う。無い無い尽くしの無い尽くしと、一人が立つ。さー、ぶっ壊すぞーと、兄貴がシャベルカーに乗り込む。屋根が落ち、壁が崩れ、柱が折れる。家が物理的に無くなっていく。理論上在ってはならない存在は、だるーい回転を続け、止まりそうで止まらず、幾分宙に浮き、やはり、そこに、在る。
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選出作品
作品 - 20070502_053_2040p
- [佳] 理論 - 高岡 力 (2007-05)
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理論
高岡 力
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