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作品 - 20070406_500_1980p

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正方形

  一条

恐れていることは、いまだ起こらないし、八時間したら私は大量に吐いていた。そして、私が、あらすじについて語りだすと、いつも決まって挫折した。明日からは、新品のセキュリティが私たちの生活を守ってくれる。呼吸が終われば、残されるものは、数えるほどしかなくなった。街には、取り返しのつかない顔をした取り返しのつかない連中が溢れている。まるで要塞みたいな私の部屋は、外壁が海の貝殻で覆われ、いくつもの扉を開かないと、誰にも会えない仕組みになっていた。あなたが本当に自分を利口な人間だと思うなら、その鍵の穴のどれかに指を突っ込んで、あなたが今までに獲得してきた全てを投げ出す覚悟でぐにゃりと捻ってみて欲しい。私は、あなたが来るまでの時間を利用して、近所の美容院に出かけた。どうやら見習い期間中の美容師が、右手用のはさみを左手に持ち替えて、右手に握られた左手用のはさみで、私の頭のてっぺんを正方形にカットした。私は、こんなに見事な正方形を要求した覚えはなかったが、待合席の男が、私の頭の正方形に見惚れているようだ。私は、規定の代金を彼に支払い、店を後にした。それから、私はいくつもの種類の乗り物を乗り継いだ。私が行き先を伝えると、運転手たちは奇妙な音色のブザーを三度鳴らした。お客さん、着きましたよ、と言って降ろされる場所はいつも同じで、代金の支払いに関しては躊躇した。いつも同じ場所で降ろされる私は、それでもいくつもの乗り物を乗り継いだ。試しに、行き先を告げずに席についても、終点は、いつも同じだった。後になって気付いたのだが、そこは、ちょうど、正方形の対角線が重なる点に過ぎなかった。私は、いつもそこから自分の意思で外れようとするのだが、正方形は、いつまでも私の後を追いかけてきた。私は、今夜の訪問客のことすらも忘れ、どこかをさ迷っている。彼らの協力がないと、どこにも辿りつけないなんてことは、とっくにわかっていた。郵便箱には、何枚もの不在票が捻じ込まれていく。その紙切れが幾十にも重なり合わされ、それは、私の頭のてっぺんの正方形にそっくりだ。お客さん、着きましたよ、と言われ、今度は、なんだかそのことが、私を愉快な気分にした。奇妙な音色のブザーや、いつも同じ場所で降ろされてしまう私や、新品のセキュリティや、あら、今夜の訪問客のことさえも、すっかり忘れてしまっている。私の恐れていることが、たった今、起きているのだとしたら、あの運転手たちにだって、きっと同じことが起きているに違いない。お客さん、お客さんの正方形に、なんだか知らねえけど、見覚えがあんだけどさ、と言われ、私は、あら、それは別の正方形よと答えた。この乗り物は、野菜畑を通り抜け、顔立ちのはっきりした子供たちが、全員例外なく上空に背を伸ばしている交通公園を何度も通り抜けた。何もかもが馬鹿げているようで、何もかもに見覚えがなかった。あるいは、今、この瞬間に、私が、すっかり馬鹿げてしまったとしたら。お客さん、着きましたよ、しかし、何度見ても、お客さんの、その頭のてっぺんの、正方形には見覚えがあんだけどねえ。例によって、私には、今、私が降ろされた場所の、その記憶しかなく、八時間くらい前に私が人気のない往来の真ん中に大量に吐いてしまったものが正方形となり、そしてその四つの頂点には、馬車、自動車、バス、電車が置かれている。

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