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作品 - 20070315_979_1934p

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鈴が来る

  袴田

純木の廊下をしのび歩く おそらく五、六人の 衣擦れの音 迂回して 囲みに来る 枕元 テレビ サンドストーム 汚れた光で 壁が読める あらかたの結末など 襖に白く走って 裸足なのだろう 床に馴染んで離れる 落とし切れなかった肌たち 湿りが足りない足音 言葉なく 衣擦れの音 それとわかるように 鈴を鳴らす一人 鈴と鈴のあいだ しだいに狭くなり 通過できない者は あからさまに 鈴を結われる 茶碗に放り込まれた 食べかけのワッフル 神楽坂 石畳 細い坂道 並んで買った 焼けたシロップの香り 喉に絡ませたまま 行列は胴をのばし 首尾の区別なく 黒塀に凭れて 簡単に 気が遠くなる 白い手袋を拾い 見咎められる ためらわずに 嵌めて 見ぬふりを引き出す 手が白く なればいい 頷きあっている母娘 首が外れそうな気配に 手を添えて 支えて あげたい それから ワッフルを割りたい 格子柄に沿って 砕いて 口に運んで そこは食べる所ではないと 注意されるまで ワッフルを齧りたい やがて手がいらなくなり 手袋を外す そのような用向きで 白い手袋を拾う また少し 気が遠くなる ワッフルを退けて 水を呑む 闇を集めて光る この水が 欲しいのだろうか 水はもう首を流れた 胸を触る おなかを触る 動物と思う 至らない 動物と思う しっぽがあった所 体毛があった所 貧しい硬さ 貧しい柔らかさ まっとうできなかった性器 冷たい生え際を撫でる 手触りを 剥きだしにする 最後の水が 通過していく 鈴が近い 鈴が近い

文学極道

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