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作品 - 20070305_655_1893p

  • [佳]  向川 - 新長老  (2007-03)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


向川

  新長老

 

線を引くと生まれる空白、そのさみしさも
見送った朝にはありましたか

流れて届かない向川
船縁から落ちる枯れ枝
似合い過ぎる薄い唇の色が揺れて

絶望というものは
けして報われない才能です
きもちが無いから
ほら、
子供が虫の羽根をちぎっているじゃありませんか

もしも
で出来ている世界を
乗り越えようとするから
遺書を書くんだろうか
それならいい
逃げ遅れたのを嘆いて
猫を抱くんだろうか
それでもいい


向川に憧れて冷たい石を呑む
張り詰めた糸、その静寂の確かさに
緊張がほどかれてゆきます
溜息は諦めよりも
錆びた木馬の眼に似ていませんか
独りで座っている姿は神様が宿った蕾のようで
垂れた首を優しく絞めたら
マサカの花が咲きました
開いては仰いでまた咲いて
御覧なさいな
空が鳥になる、その碧を
凪いだ港が近いとわかるのは
汚い言葉から忘れてしまうからです
ほら、
花びらでいっぱいの川面です

見送った朝には
見えなくなっても手を振り続けました
新しい朝が
余白を埋めるには多過ぎる朝が
そこにはありました
ここにはありました


 

文学極道

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