『ムンクちゃん』
橋の上に少女がいる。嫌な季節にいる少女が
三人、欄干に手をかけ川をみている。ずっと
続いた嫌な季節が漸く終わりを告げ。見渡せ
ば、草木の色も賑やかに。蛾。鴉。モンキー
。ミサイル等が飛行。天地共に騒々しくなる
と、もっと嫌な季節がやって来て。とても嫌
な花が咲く。とっても嫌な花が咲き乱れ。物
凄く嫌な満開の樹が「そこ」「ここ」に出現
する。とても嫌な顔をして。人はシート。ダ
ンボール。毛皮。浮浪者。行倒れ等を敷き、
樹の下で呪文の様な唄をうたう。とても不味
そうに汁を飲み、実に嫌そうに顔を顰め、薄
気味悪い踊りを舞う。それを取り巻く人とて
、又、実に嫌なものを見るように、あからさ
まな嫌々をして。嫌々であるが手は叩き、音
頭をとる。が。泣きもせず。笑いもせず。た
だただ嫌な顔面を全面にした群れが。嫌な月
夜を延々と過ごす。
ここに一人、漸く、パパと発する事が出来る
ようになった幼子がいる。ムンクちゃんであ
る。九才である。ママとも早く言って欲しい
。でも、ママはいなかった。ので、実質、マ
マと発する事が出来ぬムンクちゃんは、まる
九年間、何もかも、を、視て過ごした。夕刻
など、瓢箪頭に渦巻く思念を口をついて吐き
出したい。と、ムンクちゃんは強くおもうの
である。でも、それは叶わない。いや実にも
どかしい。よって、イライラする。イライラ
すると尚更、念いがフツフツとして。時に、
頂点に至りますと、口をついて土石する念い
は奇声となってしまう。ので、近所迷惑であ
る。よって父は、そんな時はね、お口にお手
々を当てるのですよ、と諭す父・ゴンゾウは
四十八才、左官工である。
橋の上に少女がいる。嫌な季節が過ぎ、もっ
ともっと嫌な季節にいる少女が二人。欄干に
手をかけ川をみている。先日、お一人、飛び
込んだ為、欄干には四本しか手がない。蛾。
鴉。モンキー。ミサイル等が漸く飛行を終え
。もっともっともっと嫌な季節がやって来る
。鉛色の空に、何を想ったのでしょう。発作
のごとく高じた幼子の思念は口をついて決壊
しようとムクムクしている。だが、我がムン
クちゃんは、いい子である。父・ゴンゾウの
教えを守り、小さなお口にお手々を当てて、
来るべき予感を黙殺。我がムンクちゃんは、
橋に佇み。瓢箪頭もユラユラと。朽ちかけた
鉛色の雲の彼方に、恐怖の先駆けをジーッと
視ている。
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T.T
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