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作品 - 20070301_563_1884p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


プラットホームの女の子

  ミドリ

夕陽をグラスにかざして 汚れをふき取ると まなみは
白い指先で静かに ワイングラスに 赤を注いだ
黒い瞳が どこを見ているのかわからなくて 窓の外の
高速道路の明かりが 光の点滅をフラッシュさせながら
闇を切り裂いて 空の向こう側へ走り抜けていく 世界は 

何のために回るのか 地軸の回転がふたりの座ったソファーに
重みを加えているような気がした晩秋の黄昏 まなみが
バックから取り出したのは ふたつに綺麗に折りたためられた
離婚届けだった ぼくはペットボトルの水を飲み干すと
その夜 二年ぶりに まなみを抱いた

十tトラックのブンっと走り抜ける音 取引先の会社の駐車場で
ぼくは営業車のシートを倒して タバコを吸っていた まなみが
夜の商売をはじめたのは多分 ぼくの知る限り この半年くらいの
ことだ 窓の外に まなみに似た女を見て 思わずタバコを
落としてしまった 火の付いたままのタバコが 車のシートを
ジュっと焦がした 人違い そうに決まってる

アポのあった10時に 会社の受付をくぐると 5階の会議室で
横田専務と 打合せに入った サンプルとデータを見せて
ランニングコストの比較を説明していると 専務は 唐突に
仕事とは関係ない話を繰り出した 

「二木君 一週間前に 娘が家出をしてね 帰ってこないんだよ」
「はぁ」
「仕事をしていても いつもそのことが頭から離れなくってね 
 でもね ぼくは仕事一本で 家庭を顧みなかったかもしれない
 家族の為だった それは妻や娘たちにとって 言い訳にしか
 聴こえないんだ まだ若い君には ピンとこないかもしれないけど」

その夜 ぼくは会社の帰り道で 同級生とバッタリ出会った 真っ赤な
マフラーに 厚手のダッフルコートを着て駅のホームの端っこ設けられた
喫煙コーナーでタバコ吸ってる女の子 寒そうにかじかむ手を白い息で
温めながら 彼女は 電車を待っていた ぼくが彼女の前に立つと
不思議そーな顔でぼくを見た にわかに記憶が蘇ったのか 「二木君!?」
なんてパッと急に顔を明るくして 驚いた目をパッチリと開けてぼくを見る

「久しぶり」
「元気〜ぃ?」
「まぁ なんとかね」
「二木君ってさ ほらこないだの同窓会 こなかったじゃない?!
 でもなんだ 地元に戻ってきてたんだ」なんて

彼女はまじまじとぼくを見た でもぼくは 彼女の名前が思い出せなくて
スーツのポケットから名刺を取り出して 彼女に渡した

「あっ 名刺の交換ね」

彼女は鞄から ゴソゴソと名刺入れを取り出して ぼくに手渡してくれた

「なおちゃん」
「んー わたしの名前 忘れてたんでしょう? きっと美人になって
 見違えちゃった?! なんてところかな〜」なんて

くりくりした目で ぼくを見つめる
不意にぼくは 彼女の肩を抱きすくめた 「何?」って
ちょっと脅えた声で 彼女は言った 誰かを必要としている でもそんな時
そこに誰もいなかったとしたら
ほんの少しでいいから 君の小さなぬくもりを 分けてはくれないか
ぼくはギュッと強くなおちゃんを ずっと強く 抱きしめていた

文学極道

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