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作品 - 20070228_544_1876p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


剥き海老

  袴田

海老の背綿抜く 
あなた どこのひと
こんなに並べてしまって
今夜は果てしなく
召しあがるつもりですか

あいにくの断水で
(ほら 蛇口から遠いせせらぎが 聴こえてくるでしょう)
手を洗うことは叶いませんが
盥に水を張ってあるのは
ご存知でしょう 勝手口のよこに

そのクロッカス 造花だと
教えませんでしたか
植物にしてはすこし
瑞々しすぎるとあなた 
茎を撫でていきました

海老の足毟る
あなた どこのひと
足のなかに手が何本かあると
今夜はずいぶん丁寧に
えりわけていくのですね

あいにくの断水で
(ほら 蛇口からせせらぎの匂いが 洩れてくるでしょう)
お茶の支度もままなりませんが
喉をうるおすのなら何か
果物でも切りましょうか 戴き物があるので

そのクロッカス 生花なら
早春に花を咲かせるそうです
寒さに強いので冷えた
あなたの帰るすみかに
植えてもきっと咲くでしょう

盥からひと掬い
あなたは 水を運んでくる
あなたの 椀にむすんだ手のなかで
あなたに 背綿抜かれた桃色の
海老のからだ 
きれいにあらって
見逃されたかぼそい手足
きれいにもいで
あなたが剥いた順に
きれいにならべて
透きとおった海老の整列を
あなたとしばらく眺めていた

あいにくの断水で 
あなた 留め置く
じゅうぶんな水を 調えられず
あなた 勝手口から帰っていった
盥の水で 足の汚れをすすいで
冷たいすみかへ 帰っていった 

そのクロッカス あなたから
戴いたような気がします

文学極道

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