缶ビールに干上がった花を供えた
電柱にゆれ残る男の影には
まだ何かが息づいている
歯茎から滲み出る黄褐色の目だまのように
倒れた彼の腹を
通行人の影が足蹴にしていく
蒸し暑いクラクションが
激しく回転する水流のように男の後頭部を何度も打ちつける
襟から汗が水蒸気となって湧き上がっていた
彼は 通りの向かい側
市営アパートのベランダから
追い出されたばかりなのだった
男がベランダに立っていると
バスルームの方から
熱いシャワーをかけられ皮膚を焦がされて女が悲鳴をあげるのが聞こえた
もしかしたらそれは
彼女が求めることができたただ一つの悦楽の瞬間なのかもしれない
男はそんなことを思っていた
電線にカラスが舞い降りてきて
夜の空から彼を見下すように羽をばたつかせた
ぼんやりと
そして薄弱とした地上の上をほこりにまみれた貨物列車が通り過ぎていく
音が聞こえた
他の何人もの男が彼の背後に集まっていた
「おまえ、そんなところで何してんだよ、警察は呼んだのか?」とその中の一人が言った、
「おまえは、本当に、存在する意味がないんだな、自分の女も守ろうとしないなんて、さっさと消えろよ」
そして男たちは喚声をあげながら女を組み敷いてばらばらにした
彼の目の前で女が犯された
すべての吐く息が
町の明かりを受けて交合に引き込まれていく自分を耐えるあえぎに聞こえた
男はそのとき真夏の空の元に腐り果てていく一本の木のことを思った
彼はひたすら沈黙を貫くことに決めた
沈黙を信じ
その場を動こうとしなかった
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選出作品
作品 - 20070112_428_1764p
- [佳] 沈黙 - klo (2007-01)
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沈黙
klo