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作品 - 20070111_382_1759p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


町子さん

  巴里子

町田の町子さん、病気です
と、医者は繰り返す
わたしは、待合室の壁にもたれかけ
こわれかけたビデオデッキが再生している映画を、
それがとてもカラフルだったら
とても良かったのに、なんて
決して簡単な治療ではないというのに
いったい、誰のための手術なんだろう
あなたの笑顔には見覚えがありません
あなた、あなた、ああああなななたたたた
と繰り返してみても
だんだん夜が不思議に明るくなるんです
星とか、
犬とか落ちたり
なにかをなくしたみたいな気分で
それを言い訳にできたら
もっと強くなれるような気がするけど
それにしても、覚えることと忘れることは
どっちのほうがむつかしいんだろう
わたしは、もう覚えることをしたくありません
うしろからいつも逃げたくなる人には
やさしい挨拶を、はらわたが煮えくり返って元に戻るまで
やりなさい
ああ、わたしの家には出口が一つしかありません
だからといって
一度入ってしまうと
出ることは簡単じゃないんです
それを知っているから
みんな知っているから
そんなことさえ忘れていると思うんです
町子さん、ねえ、町子さんってば、聞こえていますか?
東京のはずれで
わたし、あなたがしあわせに
今日も明日も生きていることを知っているんだよ

文学極道

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