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作品 - 20070108_258_1750p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


明日も、雨なのですか

  葛西佑也

            私は傘になりたい。
父は雨が降っても、傘をささずに、ずぶ濡れに
なって歩いて行ける。濡れた衣類の重量なんて
気にしないし、他の人も自分と同じだと思って
い、る。(自殺願望のことだって。)

父も私も自殺率の高い地方の出身だ。冬には街
の人みんな、うつ病になる。(酒でも飲まなきゃ
やってらんないよ!)父が豆腐の入った皿を割
り、脳みそのように飛び散る豆腐の残骸/踏み
潰しながら、私は私の食事をしていた。

  、グチャリ (そばでは母が殴ら
  れていた)私の空間からは遠いと
  ころ、電話の音はサイレンに聞こ
  えた。


/何かを救いだと感じる、病んでいる。(止ん
でいる? 救いは救急車でしょう?)私は父か
ら生まれたんだ。分娩台の上、前かがみになる
父から、卵のように。この豊かな国に生み落と
された


  、のです。私たちは生まれたとき
  から、絶望する術、を、持ってい
  る。(個人個人で違うやつを。私
  にとっては父。)幼い頃、大好き
  だった父の背中を見ないで育った。
 (見ないで育ったから、大好きだっ
  た? 尊敬しています、お父さん。)
  虚像の背中だけで、十分だったん
  だ、私には。


生まれたときから、ずっと、弟は父の背中ばかり
見て育った。だから、弟は 雨降り、傘をささな
い。ずぶ濡れの衣類の重量も(自殺願望のことも)
気にせずに。/私は傘になりたい。穴があいてな
くて、向こう側のはっきり見えるビニール傘に。
(できれば、柄が錆びていないとうれしい。)
            「雨は当分止みません
             よ。傘を買ったほう
             がいいでしょうね。」
             と、傘もささず、ず
             ぶ濡れで歩くみすぼ
             らしい親子に言いま
             す。


/私の向こう側の空間では、豆腐の残骸が家族た
ちの足でさらに激しく踏み潰されている。必死に
父をなだめる幼い弟の鳴き声(サイレン?)/私
にとっては、電話も愛しき弟の悲痛な叫びも似た
ようなものです。

外では、雨が ぽつり ぽつり と、降り始め。
(やがてすべてを流しさっていくであろう雨)明
日は土砂降りですか。天気予報が気になります。
私には家族の中で、明日の天気を聞ける人がいな
いのです。「明日、雨みたいだよ。傘を持ってい
くといいよ。」と、私のほうから言うばかりで 

。(私たちは家族ですか?)
自分で割った皿と豆腐の残骸を片付ける
父と、
ひたすら発狂しつづける
弟と、
何か秘めたように黙ったままの
母と、
/私の食事を続ける
 私と、/
みんな孤独だった。

そこにあるのは私の知らない家族でした。十数年
過ごしてきて、初めてその存在に気づいたのです。
しかし、紛れもなく私の家族。/私は、このとき、
初めて生まれたのです、この世界に。(望んでも
いないし、望まれてもいない。)

    /明日も、雨です
    か?みんな。私は
    みんなが大好きだ。
    みんなの家族で幸
    せだよ。母よ 父
    よ 弟よ/私は私
    の食事を終えて、
    ごちそうさま の
    代わりに言います
            


。/          私は傘になりたい。

文学極道

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