住宅地に立っていた
豪雪のために傾いたフェンスの奥から
ぼろぼろに凍りついた飼い犬が
わたしを見ていた
夏が終わってから
ろくに散歩にもつれていってもらえなくなった
冬になると弱った足を引き摺って
小屋の周りを歩き続けた
誰にも相手にされなくなっていた
いま
その飼い犬は
わたしの目の前で死のうとしていた
毛の抜け落ちた糞まみれの体が
雪を汚していた
飼い犬の死んだ瞬間が
わたしにはわかった
すこしだけ
犬の両目が沈み込み
結晶を流れていくような気がした
路上には
また別の犬が死んでいた
胴が自動車に切り裂かれて
動転していた
腸がはみ出して腐り落ちている
まだかすかに息づいていた
わたしは犬の胴を背負って
冷たい空気を吸い込んだ
背負った犬は
わたしの背後にすぐにしみこんだ
わたしは歩き始めた
路はどこまでも延びていた
その先は白くかすれてはいたが
わたしにはどこまでも続いているように思われた
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選出作品
作品 - 20061229_069_1726p
- [佳] 洞窟 - klo (2006-12)
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洞窟
klo