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作品 - 20061223_026_1721p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


南極縦断鉄道 中央駅前 寿司バーにて

  ミドリ


フィットネスクラブの一室に設けられた部屋に
ペンギンの赤ちゃんが預けられていて
マナチンコを見たいあまり 胸の気持ちが抑えられなくなり
まなみはいつの間にか
ペンギンの紙オムツをといていた

前つんのめりに
揺りかごに頭を突っ込む まなみ
それはまるで煮込みすぎた肉じゃがのようであり

まなみは将来
きっと皇帝ペンギンのいっぱしの男前を捉まえて
この子のようなペンギンの赤ちゃんを 産みたいと思った

まなみの母親は言った
これからの時代
女の一生もやっぱり
自分の力でバリバリと切り拓いていった方が好いのだと

転勤願いはいつか 海外にしょう
できれば南極支局がいい

関西生まれの彼女は下町で育ち
渋谷の一等地に いま勤める彼女は思う
どうせ悲しいことや 辛いことがあるのなら
もっと楽しく過ごせば好いのに この人たちって
東京の人たちは
やっぱり 冷たいところがあるから

昨年買ったばかりのマンションに
仕事から帰ってベットに入るとき
どこか胸のあたりがズキズキとする

空気がうんっと綺麗な
ゼラチンの中のような南極で
皇帝ペンギンの彼と暮らし
広い庭には野豚や烏骨鶏を放し飼いにし

南極縦断鉄道 中央駅駅前の
小洒落た寿司バーで
まだ小さなペンギンの赤ちゃん連れて彼と3人で
トロやアナゴや セロリの軍艦巻きを食べながら
彼はこう言うだろう

やっぱ俺はチャーハンが好かったって
「帰ったら作ってあげるよ!ねっ」
なんて言うようなものなら 彼はきっとこういうだろう
「お前のチャーハンはマズいからな」って

大体
家にはフライパンもないじゃないかって
そしたら私はこう言うんだ
この間 ヒルトンホテル前に百貨店ができたんだよ
チラシが入ってたから
オープン記念セールで とっても安いんだよって

そしたら彼はそんなことに興味を失って
息子のハルとジャンケンをしている
ふたりはペンギンだから
グゥーとかチョキとかは出せないから ムリだから
ずっとパーばっか出し合って

「あいこでしょ あいこでしょ」って やってる

それが私には
「愛はこうでしょって」「愛はこうでしょって」
何度も胸のずっと奥でつんざくように 聞こえるんだ

文学極道

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