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作品 - 20061204_772_1691p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


砂漠となる

  みつとみ

 冬の空は乾いている。車のデジタル時計を見る。空腹で気持ちがわるく、くらみを覚える。午前9時。いや10時だったろうか。昨夜、車の周りにいた狼らはいなくなっていた。車の外に出る。眼鏡のフレームを人差し指で上げる。ライターをジーンズのポケットに入れる。荒れ地を歩く。だるい。ふらつく。空を仰ぐと、ただ青い。風が吹くたびに、錆びた色の草が波打ち、地平まで広がっていく。草原という海原でひとり漂流している。空っぽの胸のなかまで、風が音を立てて、吹き込んでいく。

 歩く。スニーカーがこんなに重いなんて。歩く。ざわつく肺に、吐き気がして、腰に手を置く。頭が熱くなる、視界に光の尾がいくつも回り出す。身体が固いものに押しつけられたように傾く。意識が渦のなかにのみこまれる。地にひざを付け、わたしは倒れた。

 寒い空の下で、わたしは汗をかいている。額から流れた汗がこめかみをつたう。幼子のように体を丸める。枯れた草がわたしを包み込む。ずれた眼鏡の位置を直しながら、眠る。草の端が口の中にはいる。乾いた味だ。

 仰向けになる。地べたから見上げる空は、きれいだ。透明な青い色。眼鏡のレンズ一枚分隔たっている、距離。手を差し伸ばしてみる。何もつかめないけれど、空へ。薄ぺらい雲の隙間から、太陽が現れてくる。ゆっくりと。そして雲に隠れる。風が地を這ってわたしの顔を撫ぜる。空には何もないのはわかっているのに。風にさらされ、わたしはゆっくりと冬の砂漠になる。

 のどが渇く。水を飲みたい。口を開ける。虚空に向けて。水の代わりに乾いた風が口のなかに吹きこむ。
 眼を開けると、冷めたい太陽が空一杯に広がっていた。まぶしい。砂となったわたしの身体を、風が吹き飛ばしていく。


*平川先生のご指摘の点、検討して修正しました。ダーザイン校長のご指摘の件は、この板では修正は無理です。冬休みの宿題ということで、いつか詩集にするときまでに考えておきます。

文学極道

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