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作品 - 20061130_702_1682p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


祭りにて(ひかり)

  Toat

大通りをちらかす街灯が
踏み沈められた雪の道に
青白い絨毯をうすく敷いて
茶色い靴に包まれたぼくのあしは
どうやらわずかに浮いている様だ
光の花粉がふれあう音は
雪原に凪ぐレースのカーテンを被せて
遠くの針葉樹の群生が
底黒い澱にひたひたし
星をあるいは堰き止めている
ずっとむこうでは
祭りが行われているが
音が鳴っていたとしても
ぼくは静寂を聴くことにどうしても心奪われていて
気づかないだろう
きょうは新月なので
大通りはしずかに思索を失して
沼にしずんだまままばたきせず
時間がわからなくなる
時計の金具のつめたさが
うでをささやきで掻きわけると
キシツク腕を溶解する血液が
心臓のたたく肋骨をさわさら撫で
目の前にあらわれた手首には
線を交わした文字盤が
ほそい指針の影をふるわせていた
ぼくは祭りの露店が並ぶ区画へ
歩いていったが
靴音を落とした


会場となる通りの両脇には
露店や露天商が並んでいて
街の人々は今夜は寒さを努めて無視して
祭りを楽しむ
ぼくは酒を売っている露店に立ち寄る
棚に並んでいる
いろの息づく酒瓶の
クレヨンのようなひかりの列が
網膜にながれる絵をかいて
あかるい虚像を白くした
店主に云って
山羊のミルクで出来た温かいお酒をもらう
コップを両手で挟むと
ひとくち飲み下す
そうやって熱を感じながら
ひろい通りを歩いた
さまざまないろのひかりが咲いては散り
劇場のようだ
立ち止まり
ぐるりとまわりを見る
人々の口もとは
笑っていた
彼らは
みな盲だった

文学極道

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