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作品 - 20061026_271_1630p

  • [佳]  檻空 - 三井 晶  (2006-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


檻空

  三井 晶

飼育係に体を洗ってもらった日
私たちには 体を乾かすための
高さが必要だった


私たち
協力して 
尖った爪を
剥がし合い
屋上からぱらぱらと
落としはじめてまもなく
帰りがけの飼育係に見つかり
隠し切れない桃色の部分を見られ
途方もなく下品に笑ってもらったので
夕暮れには少し 楽になって
髪の毛を落とす
準備もできた


遠くで放課の鐘が鳴る
今日も手ぶらで吊り下がる
私たちの不様を
見咎めても 許してほしい
今日も私たち 無血だった
まだ洗いたての 肌色だった
体の中に風を走らせる
合図を待っているので
もう少し高さを
保ったままにする


飼育係は私たちが剥がした爪を
小さな瓶に詰めて
生活のために売っている
桜貝のように
指先で潰れる感じが良くて
手ぶらでは帰れない
心ある人たちが
貨幣と引き換えに
お土産にして
誰かに与え
誰かが喜ぶ
ここまでなら まだ
誰も憎まれてはいない


口寂しいからといって昔話する
湿った唇が塞がるように
指を一本貸しましょうか
関節の可動があなたに
優しいでしょう
爪のない桃色があなたに
美味しいでしょう
今日は私たちが暴れますから
あなたは離れでいい?
髪の毛は退けておきますから
ああ、その前に
性的な郵便物を
飼育係に預けて
明日投函してもらうと
良いでしょう

文学極道

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