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作品 - 20061003_932_1590p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


8月の海

  ミドリ


8月の海は穏やかな顔をもっていて
遠くのそらで潮騒が横切っていく

「いつもそこにあった海が
 いまもここにあるんだね」って
ポツリと彼が 隣でそういう

休日のドライブも遠出も
どこまで遠くへ行ったって
現実から離れられるほどの距離はない

ここはとても日差し美しい街だ
海の家やカラオケBOX
それに古い商店街とホテル

どこにでもありそうで
ここにしかないものたちが
この街にもある

遠くのそらを見つめながらアタイはいった
「夏はキライ」だと

彼はタバコに火をつけて
「わかるような気がする」といって
まっすぐに煙を吐いた

「でも少し隙間のあるくらいの
 こんな夏が
 人の温かみがわかってよい」と
彼はいった

違う違うと
アタイは大きく首をふって

「やっぱり夏はきらいなの
 だって空がたくさんみえて
 空気がきれいで
 まわりが明るくって
 はしゃいでて そんな夏が
 アタイはキライなの」

そういうと 彼は笑いだして
「変なやつだよ」といったきり
黙り込んでしまった

言外の言葉を読み取れないほど
彼は若くはない

アタイは冷たいものが食べたいといって
かれの手を引っ張った
その温かい手が
いつもと変わりのない強さで
アタイを握り返す

アタイの小さな胸の痛みを
ゆっくりと抱きしめるような
強さで

文学極道

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