若くして死んだ男のことを
思い出す ただそれだけのために
過ぎた歳月のぶんだけ遠く
いつか旅してみたい
それもどこか南の灯台で
あの遠い日を悔いていたい
世界の誰からも見つからぬように
抱えた膝に顔を埋めていたい
厚いコンクリートの塔の内側で
叫びだしたい思いにさいなまれていたい
吹きすさぶ風と立ち騒ぐ波の音に
ただ聞き入っていたい
紅い椿は千切れ飛んでしまえ
海鳥の翼も折れてしまえばいい
わたしの灯台は冷たい光を放ち
おまえの知らない秋をまねくのだ
若くして死んだ男のことを
思い出す ただそれだけのために
白髪のようなススキの穂に
いつか覆われてみたい
おまえが死んだ北の岬は冷たすぎるから
せめてどこか南の灯台で
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