#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20060923_719_1565p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


センチュリーハイアットホテルとブタのブギ

  ミドリ

じりじりと陽にやけ付く夏の
車のフロントガラスに目を覚ましたとき
高速道路のパーキングエリアは
巨大なトレーラーで埋め尽くされていた

プーマのロゴでプリントされた
スポーツバックを肩に担ぎ
小ぶりのブタが
フロントガラスの真正面を横切る

下っ腹の出たそのブタは
缶コーヒーをグビっと横目であおると
ツカツカとこちらへ寄ってきた

ロックされたドアをガチャガチャと揺らし
「乗っけてくんない?」と
いわれなき言葉を僕に吐く

ウィンドーガラスをおろし
「どこまで行くの?」と訊くと
「ジャカルタまで」

冗談だろっ!

本気だよ
この車なら
この先にある30分ほどの
おり口から下りて
国道へ出ればいい

そこでルナって女を拾って欲しいんだ
ルナだよ 間違えないでくれ
「とりあえず後ろ? いいかい」

ブタはアシックスのシューズで
後部座席に踏み入ると
プーマのバックをポンっと放り投げ
どっかりと腰を下ろした

「何だか俺たち 笑えるよね」と
ブタは大きく背もたれに肘を掛けながらいった

「ハァ?」って
あきれた顔で振り向くと

ブタは葉巻を咥え
キューバ産だぜと
片目を瞑りながら
葉巻を挟んだほうの指を 軽くあげて見せて

さて
これからドライブだ
ルナとの待ち合わせは
センチュリーハイアットホテルの
スィートルームだ
もちろん
そのまま国道へ出てくれればいい

「悪いがブタ君 僕はこれから
 女の子を迎えに行くとこなんだ
 すぐに降りてくれっ
 今すぐにだ!」

ブチ切れた僕はブタの目を真正面から
見据えていうと

ブタは葉巻に火をつけて
とても静かな物腰でこういった

ここから日本海はとても近い
耳をすませば
海風をこの手でつかめる程の距離だ
ゴォゴォってさ
まるで絶滅した世界の果ての後
子供たちが互いに抱き合って
脅えたて泣き喚く声のようだよ

とりあえず5分くらいの力で
ブタの胸倉をブン掴んで
グゥーで殴り 気絶させたあと

センチュリーハイアットホテルへ向かって
車を走らせた

後部座席にクタッと
ブタは気持ちよさげに
眠っているかのように 目を瞑っていて

ホテルに着くとスィートルームには
ブタの名前ですでにチェックインはされていた
3時間くらい待ったが
ルナという女は
とうとう現われはしなかった

気絶したままのブタを
ふかふかのベットに寝かしつけ

センチュリーハイアットホテルを後にした
バックミラー越しに夜景の傾いていく
ブタと居たこの街を残して
僕は再びインターへと車のハンドルを切った

センチュリーハイアットホテル
そこは
ブタとスィートルームと
ルナとジャカルタの在る街だ

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.