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作品 - 20060915_566_1549p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


たんのう

  ヒダリテ


少なくとも
胆嚢は
愛ではないと思う

真剣な顔の彼が
突然、自分のおなかに
手を突っ込んで
どす黒く血に濡れた
胆嚢を取り出す

汗びっしょり
息を切らしながら
胆嚢を
あたしの顔の前
差し出しながら
「これが僕の愛だ」
なんて事を言う

「いいえ、これは胆嚢よ」
と、あたしが言うと
「そうか」
と、彼はちょっと
残念そうな顔をした後
「間違えた」
なんて言って笑う

「胆嚢は、いらないか?」
と、言う彼に
「間に合ってるわ」
と、あたしが言うと
「じゃ、冷やしといて」
と、彼はあたしに
それを手渡す

「確かこの辺に、あったはずだが」

そう言いながら
彼はまた
おなかの中に
手を突っ込む

あたしは彼の胆嚢を
ラップに包んで
冷蔵庫に入れる

「胆嚢なくて平気?」
と、あたしが言うと
「死ぬかな?」
なんて言って彼は笑う

「君は愛がなくても平気なの?」
と、彼が訊くので
「愛なんて、どうでも良いのよ」
と、あたしが言うと

彼は
ぽっくり
死んでいる

冷蔵庫には
彼の胆嚢
部屋には、あたしと
彼の死体
少しだけ開けた窓
ひらひらと
カーテンが揺れている

「愛を、探しに行ってくる」

彼の声が聞こえた気がした

文学極道

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