白い枝が背中から生えてきたので
僕は出掛けることにした
理髪店の角を曲がったところで雀が飛んできた
どうやらこの枝が目当てらしい
雀を乗せて僕は歩く
橋の下に住むジジイも目を丸くして大丈夫かと言う
「邪魔なら切ってやろうか?」
それを痛そうだからと断り手を振った
踏み切りを過ぎたあたりから背中が重くなって
首を捻って見ると白い烏が留まっていた
上を見上げると電信柱に留まった烏がカアァと鳴くので
僕は日傘を差すことにした
郵便局の前で親子連れに会い、子供に緑の天使と言われた
何時の間にか枝はたくさんの葉を付けていたのだ
その子の母親は不思議な事があるものですね、と言うので
不思議な事もあるもんですと答えた
特に行き先も決めずに歩いていると
空き地で子猫が鳴いていた
僕は鳥と猫が仲良く出来るか不安で悩んでいたら空が曇ってきて
雨が近そうだったので子猫も連れて行く事にした
ため池に続く坂道を下っていたら黒い蝶がひらひらと
此方にやって来て枝の方へ留まった
見てみると枝は花を付けていた
僕は何だか上機嫌になって鼻歌を歌い始める
市営団地の駐車場で女の子が泣いていた
「どうしたの?」
女の子は顔を上げると子猫を見つけ目を輝かせた
それから泣いてた理由も言わずに子猫を抱えて去って行った
雨が降ってきたので側にあった教会に入ることにした
若い神父が貴方の懺悔を聞きましょうと言ってきたので
懺悔は無いけど背中から枝が生えて来たんですと言った
「それはきっと神からのプレゼントです。」神父は微笑んだ
雨が上がって外に出ると道路の真ん中で狸が轢かれていた
僕は悲しくなって死骸に触れてみるとまだ温かかったので
ますます悲しくなって何処か静かな場所に埋めることにした
さっき降った雨のせいで夕暮れの道は金色に光っていた
やがて目の前に海の見える丘を見つけた
穴を手で掘っていると何処からともなく髪の長い美しい女性がやって来て
スコップをくれた
お礼を言うと彼女は手話を見せた
狸を埋めた後で僕は背中の枝を一本折って供えた
赤い花と深緑の葉が付いた枝だった
僕と彼女は手を合わせる
それからもう一本枝を折り、彼女にプレゼントした
最新情報
選出作品
作品 - 20060909_453_1540p
- [佳] 枝が生えた少年の冒険 - 空栖 (2006-09)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
枝が生えた少年の冒険
空栖