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作品 - 20060809_995_1478p

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天気予報が伝えた雨

  はやし こうじ

昨夜の天気予報が伝えた雨は、
午前中を過ぎても、一向に降りだす気配がない。
朝方には雲が低く覆っていたのだが、
いつの間に少しずつ流れ
向こう側の空は少しずつ明るさを取り戻しているようだ。

また外れたな、と思いながら車を運転していると
ラジオが隣町の豪雨を伝えてきた。
僕は一人で、オッ、と言って少しばかり驚きの表情を作り
信号で止まって後ろの方を振り返ってみる。
もちろん雨は見えない。
雨が降るから、と言って妻が持たせた傘が
後部座席の下、足元に乱雑に置かれたままになっている。

妻は出がけに僕を玄関まで送り、傘を渡した後
蒸すわね、と一言言い、
踵を返した。

昨夜、僕は酒に酔い
妻が子供達を寝かしつけているうちにソファでうたた寝をした。
目を覚ますと深夜で、妻が布団に寝ろとうながす。
身体を起こしソファに座ると
妻は少し離れた床に座り、
今日、今月、きた。と言った。僕は
そっかと言って、部屋に入った。

僕が自分の部屋に入った後に妻は
僕のシャツにアイロンをかけ、眠りにつく。

その後、僕が寝付けなかったのは
うたた寝のせいだろうか。

信号はまだ赤のままだ。
少しだけ明るさを取り戻した空が山の向こう側で
ドドッ ドッ ドッドド と不気味な唸りをあげはじめた。
僕は、来るかもしれないな、と思い
もう一度振り返って、光を透した雲を仰いだ。

文学極道

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