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作品 - 20060802_828_1460p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


冬のデート

  ミドリ



わたしは子供を産む気はまったくなかったし
生理不順で婦人科の台にのって
股をひらいたことは一度だけあるけど

幸い恋人はあまり したがらない人だし
わたしもセックスが愛情のベースになってるなんて
考えたこともない

冬の京都で
恋人と「マ・ベーユ」というお店で向かい合って座っていた
ツナペーストをフランスパンにぬって
ふたりでホッとするあたたかいコーヒーと
手のひらの中の 立ち枯れのプラタナスとを
ふたりは肘をつき 窓の外に眺めていた

その晩 わたしは彼にホテルでレイプされ
血のついたシーツをみせて
「処女膜が破れちゃったよ」って言ったら
彼はタバコに火を付けて
ベットサイドからタオルを投げてよこした

その目のそむけ方や仕草で
めんどくさいって 言ってんのが伝わってくる

世間にはいろんな歪みがあって

例えばスーパーマーケットの パック詰めの肉は
お墓のない動物たちの 死体の群れだし
子供なんか 絶対産みたくないわたしは
子宮や膣を 大きな鍵でガチャンと閉じた
けっして母親になることのない女だ

街を歩いていて
お腹の大きな主婦を見て
妊婦なんてサイテーだって彼にそういったら
耳に触れてるわたしの髪に ツンっと鼻を寄せ
海のイルカの匂いがするねって 彼が言う

わたしはわたしが
イルカだってことは 十分ありうるな
なーんて 考えながら歩いていたら
横断歩道が青だよって
彼に背中をツンツンってせっつかれる

現実の時計の中にしか 彼の時間には流れがなくて
わたしには夢で得た 人生しかないんだ
そう思ったらちょっぴり

さっきの妊婦のぽってりとした
あの大きなお腹の膨らみに
甘いものが きちんと保たれている

なんて 思ったりも するんだよ

文学極道

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