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作品 - 20060701_913_1371p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ゆっこの乳母車(プリントアウト用パート3)

  ミドリ


僕らは知り合った
京都駅の構内
売店でタブロイド誌を買い

37歳 無職男性に誘拐された
子供の記事などを読み

眉間に皺をよせ
退屈そうに足を組み
人たちを乗せて揺れる 

京都駅発 奈良行きの電車の中で
アヒルを乳母車に乗せて
通路を歩く
ゆっこと出会った

「いい子にしていたよ
 今日は全然 おしゃべりしていないもん」

アヒルは乳母車の中で
首をいっぱいに後ろへひねり
母親のゆっこに話しかけると
ゆっこは肩をすくめ
アヒルの頭を撫でてやった

彼女はアヒルの腰を捕まえて
乳母車から降ろし
ひざ掛けの上に乗せると
胸の中で強く抱きしめた

みんながわたしたちのことを
まるで知っているみたいな顔でこっちを見ている
きっと君が
アライグマやペンギンだったとしても
そんな風に
みんな君を見るんだろう

この町で君は生きていかなければならない
ゆっこはアヒルの頬に耳を寄せると
もう一度強く抱きしめる

「ママ」って アヒルは小さくつぶやき
車窓の外側の空に
小さな雲をひとつ見つけると

「ほら見て 
 あの雲さ パパの顔にそっくりなんだよ!」
そう言って ゆっこの膝の上でポンポン弾むと

「ママの顔は どこにあるのかな?」
アヒルの顔に頬を寄せ
窓外を下から透かし見るように
空を見上げるゆっこに

アヒルは大きな口を尖らせて言うんだ
「ママの顔なんて どこにもないよ!」って言うんだ

僕らは知り合った
京都駅発 奈良行きの電車の中で

アヒルの大きな嘴からこぼれた
とても小さな声と
それを胸ん中で 必死に抱きかかえる
ゆっこと出会ったんだ

文学極道

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