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作品 - 20060620_658_1339p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


グッドモーニング・キッズ

  ケムリ

閉め切った窓に真っ白な鳥が降りてきて、ぼくは格子の向こう
の空を見た。向こう側にあるから、四つ羽根はひとつ、ふたつと
くちばしを囁き、曇り空に溶け込むアッシュの羽根をはためかせ
真四角を放物線で切り取っていく。重い連なりのかさなる空のせ
いで、今日も電線は撓んだままぼくを笑う。

 空飛ぶ畸形が、群れの中へと重なっていき、ぼくの大事な椅子
は今日も背もたれが取れたままで、錆びた刃でスライスされたひ
かりを受け止めながら、いつもと変わらない曖昧な影で部屋を二
つに区切っている。ほこりたちの揺らめきが煩くて、クリーム色
のカーテンを重ねたのに、影はいつだって連なり過ぎる。

 フィラメントの揺らめく轍を切り裂いていく白い群れが、撓ん
だ電線を軽々と越えていく朝に、真っ白の十字を掲げた幼稚園に
小さな靴が集まる時間に、ぼくは耳を塞いだまま四つ羽根を追っ
ている。気化するたましいは、部屋を巡る嘘つきたちに笑われて
しまう。部屋の隅で、誰かがおはようを叫び続け、郵便受けから
はいつもゆびさきが覗いている。

 四隅には、四人が腰掛けている。四つ羽根は今、国境を越える
旅客機を包み込んで。コクピッドでまどろむ機長に、飲みすぎた
ワインに眠る人達に、置き去りにされて低い声で笑う金星に、ぼ
くはまだ耳を塞ぎ続ける。音割れしたヘッドフォンが部屋の隅で
くさっている、四人目の足に重なって。まだ、空は空のままで、
断ち切られている。

 切り裂かれた子ども達の賛美歌が、ぼくの耳たぶを引っ張って
ぼくはまだ両耳を塞いだまま遠ざかる四つ羽根達を追いかけてい
る。格子に断ち切られて、電線に切り裂かれて、一糸乱れぬさよ
ならの群れが、遠い機体を包み込んでいく。ぼくは耳を塞ぎ続け
る、誰かこの僅かなひかりを汲み取ってくれないか。その小さな
手で、その柔らかな足先で。

 痛みを知らない耳たぶの丘を越えて、滑らかな網膜の泉に連な
って、柔らかな髪の隙間に遊びながら、遠ざかっていく。ビルの
屋上から飛び立っていく柔らかなあなたが聞こえてくる、断ち切
られた空から、切り裂かれたひかりから。格子の向こう側にある
から美しいものもあるよ。朝日に焼かれて生まれて来た鳥もいる。

 清冽な十字を鮮やかに嗤い、屹立する高みよりもずっと先に、
きっと優しい歌はある。それは歩くひとの靴紐に、眠るひとのこ
めかみに、歌うひとの唇が分かたれる激しさに、四つ羽根達の向
う先に、重い雲が解き放たれた彼方に、こめかみに触れた冷たい
指先に。

 ひかりは降り注ぐ、断ち切られ、切り裂かれ、羽根を纏い広が
りながら、それでもぼくらのもとへ。耳を澄まして、両手広げて
ほら、もう朝でしかない。

文学極道

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