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作品 - 20060524_124_1285p

  • [優]  No Title - 浅井康浩  (2006-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


No Title

  浅井康浩

やさしさを帯びてはあふれだす蜜という蜜のただよいのなかで交わされていった
質感としてではなく透過性そのもののやわらかさとなったあなたへの糸状の思い巡らしの
その内実へと、ありったけのファムな香りを含ませておけ
                       眠らないことでつぐなおうとする夜に
              あなたの呼気につつまれて、うっすらとあおくなりながら
           わたしはわたしの呼吸をあふれさせてゆくことになるのでしょう



青に満たされた空間にあって
蜜の蕊を震わせて、しかしまだ響きだけがかすかにきこえていることの
その不思議さになじみはじめるわたくしがいて
あるときは音のぬくもりなんかに抱かれて
甘ったるい体温へかたむいてゆくことの不思議さをゆるすわたくしがいる



いつかの気象図面がここいらの時間軸との交わりによって
いらいらと泡立ってゆくのが見えるよ
ここの地形図の一点からの風景は
平面としての図の想像を越えた高低の差でいっぱい
いつかのヘクトパスカルも
ここでは質量を四方にはりめぐらせたラウンドスケープそのものとなって
生成してしまうのだから
ときに土砂となり
ときに果樹園の果実となって
みずからが高低の差として現されるべき斜面をころがりおちたりもするのでしょう



また、ほつれることではじまってゆく変化をおもえば
最後に、濡れ尽くしたものたちへ、もうなにものでさえ
濡らすことのなくなってしまった水そのものたちへと
いまひとたびのささやかな感謝を。



どうしたって きみの眼と蜜とあおさに浸されてしまう
きみだったなら「海洋」なんてそっけないひとことで言い表してしまうはずの領域で
明るさやその翳りをもなくして
けれど色彩を忘れ去ってしまったものたちだけがみたすことのできる透きとおった哀しみだけが
かつて世界が青色だったころのなごりのように 遠くへ

文学極道

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