選出作品

作品 - 20060515_950_1260p

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いのちの情景

  前田ふむふむ

たえず流れゆく虚飾で彩られた十字路たちの、
過去の足音が、夜明けのしじまを、
気まずそうに囁いている。
燃え上がる水仙の咲き誇る彼岸は、
すでに、水底の夢の中に葬ってある。
落下する時をささえ続ける幼子が、
やさしく言葉で綾とりをする聖職者の午後が、
さりげなく黄ばんだモノクロの映像で充たされてゆく。

わたしは、溢れ出る、そして枯れてゆく出自が、
白骨のように、潔いまなざしで、
真夏を咀嚼する荒野を駆け抜けてゆくとき、
今日も、当て所も無く、
氾濫する炎をもてあます道化師のように、
偽りのみずうみをさ迷っている。
そして、爪垢ほどの重さの無いわずかの名声は、
絶えず枯葉のように舞い落ちて、
都会の妖婦に、いつか埋もれてゆくのだ。

静寂が波打っている。― 赤い血はまだ居るのか。
混沌が朽ち果ててゆく。― 青い息は、まだ聞いているのか。
わたしは、まだ、此処にいる。

見捨てられた世界の
止め処なく、沈みゆく地平線のはてに、
置き忘れた栞の一行のきらめきの中で、萌え出す、
手を差し伸べるあなたが、津波のようにどよめきを上げて、
押し寄せてから、凪いだ鬱蒼とした森の灯台になり、
垂直に横たわってゆく。

わたしは、運命が軋みをあげて、綻びる古城の季節に、
たとえ、抜け出せない寂寞とした厳寒の沼地のなかで、
もはや言葉を失った棒状の鉄杭になった足を束ねられても、
あなたの手を、しっかりと抱きしめて、
このいのちの絶えることの無い激痛を携えて、
瞳孔の暗闇の中に広がる、赤く染まる夕暮れを、
いつまでも、諦めることなく歩いていくのだ。
生まれ変わる瑞々しいいのちが一滴の源泉を射抜く
黎明の大鳥が訪れる、その時のために。