英国キューガーデンの一隅に
夏季だけその扉を開く小さな庭がある
広い園内を歩き疲れた頃 偶然たどり着いたのだ
入り口に置かれた木の長いすに
銀髪の婦人が斜めに腰掛けて 新聞を読んでいた
古い手紙を読むにふさわしい 夕暮れの
人気のない庭
痩せた少年の庭師が
紫の花株を手に
花をおいてはすこし離れて眺め
新しい場所を物色していた
一足踏みいるごとに 私は胸そこからの感嘆の声を呑み
足の疲れを忘れていった
流れていない音楽が
詩人の瞳が
死んだ恋人たちの 笑い ささやきが
一刻ごとに訪れては
去っていく
花のいろの沈んだ華やぎ
門柱
白いオブジェ
藤棚のトンネルを抜けると 小径は小高い丘へと続き
ふいに凍てついた遠景を見せる
重い雲が彼方の光りを包んでいた
2001年9月12日
新聞を読む人の眼が 何を見ているかしっていた
私たちを襲うもの
その予感も
起きてしまうことへの戦慄も
不意に自身がその渦中に置かれることも
遠く知ることも
此処でなら
私は・・・
いつか最も美しい場所も瓦礫になる
此処でなら
わたしはいい
ひとに用意された惨劇を知りながら 何一つ変えることができないとしても
それが起きるに相応しい 最も美しい場所をあらかじめ用意すること
此処でなら と死者が思い
あなたとなら滅びようと 場所がほほえむ
私の庭を領土として拡大する
そこに生きる時間を注ぐ
それが私の報復だ
選出作品
作品 - 20060509_831_1244p
- [優] 【シャルロットの庭】 - fiorina (2006-05)
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【シャルロットの庭】
fiorina