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作品 - 20060508_793_1241p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ララパルーザ

  Tora

日射病の前頭葉をハンカチで拭いながら
反り返ったガザミの匂い縫い込んだサラリーマンが垂らす竿の
その先280km一日遅れで新聞を読む人々の住む孤島から
おいこらせとやってくる老婆の背負い籠は80kg
魚は全て死んでいるのだし
仲間も皆墓石のように冷たい
いつものように3番目の街頭の下に風呂敷を広げ
潰れたカサゴのような体をはめ込み終えると
老婆は項垂れたまま小さく「買わんねぇ」と息を吐いた

老婆には脛が無かった

時折爆風のような排気ガスが老婆を襲うが
茶菓子にもならんばいと言いたげな眠そうな眼で
薄らぐスモッグめがけてただ「買わんねぇ」と語りかけるだけだ
若いカラスミ売りが時々やってきて
老婆のテリトリーを犯す
露出狂の乳房の谷間には札束が埋もれて
老婆が3度まばたきする間には 意気揚々と帰っていくのだが
老婆のつり銭籠が満杯になる日は決してなく
いつものように7本目の街灯の前 ファーストフード店の
割引チケットを手にした行列が 途絶えることも決してないのだ


俺は遠く280km先の郵便局員にも聞こえるように
すう はあ すう

うまか魚ばくれんねぇ!

と叫ぶのだが
やはりつり銭籠は満杯にはならないし
老婆にはもう背びれが生えてしまっている
一瞬ぶるっと背びれが震えたのは確かだ





玄関の扉を開けると
遅かったねと母が俺から魚を受け取る
3畳ほどの台所で腐った魚と泥を煮る母の
両の足に脛は無い

文学極道

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