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作品 - 20060501_497_1216p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


この愛に満ちる星たちへ

  ミドリ



あの人の店のそばにあった
公園の緑の匂いがとてもつよく
茶色のオフタートルにジーパンの
彼女はいつも笑っていた

窓ガラスを揺らす
バスの後部座席にふたりで腰を掛け
曇った朝の日の通勤の
つよい風を窓の外にみていた

静かに沈んだ声で
「なに考えてるって」って
彼女が言うものだから

今日は会社をサボって
このまま海へ行きたいと言った

ちょうど私も
そう考えてたところって
ウインクで返す彼女は
ちょっとおませな
小学生みたいに見えた

5秒くらいぎゅっと手をつかんで
キスしたい衝動を抑えながら
僕らはバスを降りた

街に暗闇が落ちてきて
ポツリポツリと雨が降り出す
手を離すと
ふたりは離れ離れに
はぐれてしまいそうな気がして

サンドイッチみたいに肩を寄せ合い
傘を立てた

スクランブル交差点をすり抜け
街の頭上でヘリコプターの音がする
世界にぎゅっと詰まった力が
体中に押し寄せる

この星に愛が生んだ奇跡だと
ジンと体の奥で感じる

「海まで行ける」って
そう 耳元をそばだてる彼女の声と
ブラウスの袖をまくる
体温の弾んだ感触

僕らは街と海を結びつける
グレイの瞳を奥に引き締め
それぞれの職場に向かう

ワイングラスに
時の甘い声を響かせるような
ローヒールの彼女の足取り

街は恋人たちを遠回りさせ
孤独に押し込み 外の世界を
明るく照らし出す

それが僕らが生まれるずっと以前から
なにひとつ変わりやしなかった
ただ一つの メッセージ

文学極道

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