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作品 - 20060424_328_1195p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


一つ屋根の下

  ミドリ




星が普段どおりに頭上にあって
いつもと変わりのない夜だった

カモミール茶のために お湯を沸かしていると
キッチンで女が 後ろから抱きついてきた

「子供を産む」と 彼女は俺の背中で言った

南の島で出会ったこの女と
俺は自然に 終われればいいと思っていた

素朴な暮らしがいいと
ワラビーの目みたいにこちらを見つめ

女は
「もう お腹の中にいるかもしれない」と言った
彼女がいつも胸に突きつけてくる問いや疑問は
俺にとっちゃ いつもささいな問題であり

適当にあしらっておけば
その会話の流れは また自然な時間を見つけ出し
納得済みの日常へ
いつでも心軽く 帰れることができた

世界がきっぱりと
ある時点から変わることがある

女の体調がどうもおかしい
営業事務の仕事も休みがちになり
昼ごろまで布団に入っていることが多くなった

仕事が生き甲斐で
いつもきちんと部屋を片付けていた彼女が
ある日を境になにもしなくなった

部屋から出てこない
激しく吐くような嗚咽が
何度も部屋の奥から聞こえてくる

女は
これまで何を考え 思い生きてきたのだろう
とても辛かろうことや
人のにはとても真似のできないことを
易々とこなしていくような女だった

その彼女が
いま部屋から引きこもり出てこない

会話を交わすことさえ
困難になり
この先 人生をともに過ごすつもりもない女との
こうして一つ屋根の下での暮らしが
始まりを告げていった

文学極道

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