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作品 - 20060424_324_1194p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


明日に会いにゆく

  藍露

1.
喪失した大地から声が聴こえる
掬われた足元のもっと遠くから 遠くから
太陽が剥き出しで引き上げられる
黄色い光の溢れる場所へと

2.
すべての鳥は還ってゆく
深い青色の空の中心へ
羽根の生えた赤い蛇が渦巻いている
雷を落とされたような衝撃に満ちて

3.
揺れる湖面が呼んでいる
葉を散らして 引き裂かれた森の枝
湖底に沈む生物が騒いで 波が起きる
けだものは朝を食べていた

4.
蝶々が割れた爪から生まれ出した
再生した花から花へと飛び移る
蜜を集めて 時間を吸収してゆく
指と指の間には 残された鱗粉

森の奥で なにものかが 蠢いている 光るものを全て集めて その光るものに自らを映し込む そっと覗き込んで 瞳を閉じる 見てはいけない 見てはいけない 見てしまったら なにもかもが 終わってしまう そんな予感がして 静かに断片を 集めている 手のような部位で覆いながら 鋭利な断片 突き刺してしまわないように

5.
地球が振動している
新しい惑星が生まれる、その時に
爆発する宇宙の彼方、胎動
あらゆる動植物が嘶いている

地球の音は小さく 大きく 小さく 大きく を 繰り返し 彼方の胎動は続いている ブラックホールに吸い込まれてゆかないように 漂っている宇宙船 子宮のなかを流れるいくつもの細胞のようだ 分裂する場所を目指して どくどく、と波打っている ミトコンドリアが喋っている ひそひそ ひそひそ 耳を澄まして 宇宙船はお喋りを聞く

6.
唇が痺れて 蟷螂(kamakiri)の音色に反応する
口笛を吹けば 空から足が伸びて
すらりとした美しい足
それに纏わりついている 紫の蜥蜴(tokage)

7.
帽子が風に飛んでゆく
空の変動に頭の先端が気付いて 
長くて黒い艶やかな髪がなびく
しゃなり、しゃなり、と時間は過ぎて

8.
深い青色の空で雲が移動する
桃色の雨が降る
人々は色とりどりの傘を裏返しにする
濡れた服、溜まった水滴は傘の色と呼応して

9.
剥き出しの太陽から雫が垂れてくる
絹の布で拭いて 湿る成層圏
太陽が海に落ちてきて
あたりは漆黒の闇に包まれる

10.
寝静まった世界
紫色の絵の具で 線を引くように
日付けが塗り替えられて
その線を飛び越えて 明日に会いにゆく

文学極道

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