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作品 - 20060417_148_1175p

  • [優]  泥道 - Tora  (2006-04)

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泥道

  Tora

六畳の墓に供えられたアルメリアを
ムシャムシャと食べた
鉄分の赤が鼻にツンと抜け
「そろそろ行かなければ」と
俺は墓から這いずり出た

腐った六腑を落とさぬように
軽く酒をあおり 軽くお辞儀をしながら 
賑やかな商店街に辿り着く
「いらっしゃい。新鮮な五臓はいらんかね?」
ああ 新鮮ならば きっと思い描いていた場所まで行けるかもしれないと
ぬか喜びしそうになるが 俺にはもともと五臓が無い
「五臓は欲しいが入れる場所がどうもないのだ」
すると店主はこういった

「その六腑を捨て そこに五臓を入れたらよろしい」

俺は「ソレを捨てる事はできないよ」と店主の肩をポンと叩き 商店街を後にした



腐った六腑を落とさぬように
歩く表通り 歩く歩調そろえ
赤煉瓦の病院に辿り着く
「顔色が悪いようだ。六腑を検査しましょう」
ああ 道理で体がだるく 目に入る文庫本が全て小型犬に見えるわけだと
六腑を差し出そうとしたが そういえば俺には保険証が無い
「明日の雨空に虹を見たいのだが保険証が無いのだ」
すると医師はこう言った

「いや明日は快晴に違いない。きっとそうだ」

俺は「青空の下の泥道もいいかもしれないね」と医師の両肩をポンと叩き 病院を後にした


ぐねる ドプンと

泥道に 六腑が落ちる


そういえば俺は何のために此処まで来たのか 思い出そうとしたのだが

ぐねる ドプンと

赤絨毯の上に 記憶が落ちる

いつのまにやら辺りは大観衆 歓声に応えようとしたのだが
良く聞くとそれは 罵声だったのだから

ぐねる ドプンと

六畳の墓に辿り着いた俺は
ヌルリと穴に這いずり込んだ
大勢の大観衆が歩調美しく去った後
見たことのある少女がやってきた
彼女が添えたアルメリアが
どんな味だったのか思い出すことは出来ないが
彼女のまるで恋人に見せるかのような虹色の涙は
俺の五臓六腑に染み渡った


大観衆が去っていく途中の
雑草すら生える事を許されていない泥道で
彼らは不思議そうに 朽ちた六腑を眺めている

文学極道

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