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作品 - 20060413_987_1158p

  • [優]  灰桜 - 苺森  (2006-04)  ~

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


灰桜

  苺森


ぽつり ぽつり、アスファルト叩く雨
最後に笑ったのはいつだろう


お茶をするなら桜の下
紙コップに浮かんだ花びら
ゆらゆら、と
永遠に解けない夢の様
おまじないかけて

絵空を泳ぐわたし
仄めく青の
絡まり滑る、遠い呼吸

包んだ掌のなか滲んでゆく桜色
淡いぬくもり、ひらり
ほわり、
芳しい波に乗る若いたましい


魚だった

わたしのコップに落った花びら
汚いと泣いた
はらはら、涙の鱗、
幼い瞼に弾かれて
飲み干しなさいと母が云うのに
解かれた魚になり、
花びらは綺麗になる子だけに落ってくるのだと
お前は選ばれた子なのだと謳う、謳う、
柔肌撫で上げる風―母は謳う風だった

春、春の瞬きに踊る
こころ踊る
黒髪の海 さんざめき

仰いだグレイに抜ける春
きらきら昇るプリズムに似て
透けてゆくあの日―少女だった

雨だった


きれいでなど

月日は流れ散りゆく桜も煙草の灰
白々、くすんで見えた四月の公園
木々の向こうの暗き横顔
乱立するホームレスのビニールテント

まだ憂えて 春待つ魚

誰とも笑えなかった
何もが
きれいでなんかなかった
きれいでなんかなかった


呑まれないでどうか

この街、巡る季節
わたしでまた泳げるといい


やわらかに 軽やかに
時の波を
ひらひら、ゆらり 舞い踊り
悪戯な春風のなか
洗われるような花吹雪
新芽の芳り 青々と

泣いてないで

ぱらぱら、鱗を落としながら
薄らぐ記憶の表皮を 空
泡沫、沈む、夢剥がれる音


いつも雨だった
わたし


きれい

きれい、笑えるといい
こんな こんな
何をも

笑ってしまえたら
もう笑ってしまえたら

文学極道

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