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作品 - 20060411_941_1151p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「ラフ・テフ」の晩餐

  ミドリ



「オイ!お前 バナナを鍋に入れたのかね?」
カンガルーは僕に 偉そうに威張って尋ねた

いま厨房の隅っこで うずくまっているエプロン姿のメンドリが
彼女がさばいて入れたのだけど
「はい 入れましたよ」と 僕は答えた

すまないが俺も一緒に その鍋に入れてくれないかと
カンガルーは僕の目をまっすぐ見つめて言った

「構わないがアンタ 体重は幾つだ?」というと
カンガルーは目を伏目がちにして
自らフライパンの縁に足を掛けた

「ちょっとスマンが お尻を押してくれないか」と カンガルーが言ったので
僕はボンって カンガルーのケツを踵で蹴飛ばしてやって
鍋の中に押し込んでやった

バナナの皮に包まれたカンガルーは
サラダ油にまみれ グツグツと煮込まれて目を瞑っている

メンドリがコンロの傍にツタツタとやってきて
火力のつまみを右手でギュッと全開にひねった
ボウっと上がる火の前で
メンドリは僕の目をみて キュッとウインクしている

その晩
「ラフ・テフ」の住人たちに振舞われた料理は
「バナナとカンガルー」のソテーだった

「ラフ・テフ」の 大きな施設の中庭で
動物たちの歓談に 華が咲いている

僕は見ていた
アルマジロがカンガルーの背肉にナイフを
起用に差し入れて
パクリと口に運ぶのを

そして建物の中央玄関のガラスドアーの前で
メンドリとテリア犬が女同士 額を寄せ合って
何かをコソコソ 話ししているのを

カフェバーでピアノ弾きたちの椅子係を務めていた
あのカタツムリが
ノソノソと僕の傍にやってきて
耳たぶ裏側で 舌打ちのようにつぶやいた

「サイコーだろ 彼女って」
「へっ?」て 僕が振り向き 訊きかえすと
カタツムリはあの厨房で働いていた
エプロンのメンドリのあどけない顔を 遠い目で見つめながら
なんだか にやついていやがる

「妊娠してんだよ アイツ」と
カタツムリはそう言ったあと
少しうつむいて 「今の仕事じゃくっていけないんだ」と
奥歯をかみ締めるように 悔しそうに言った

建物の前で
メンドリと別れたテリア犬が
中庭の芝生を突っ切るように
まっすぐ僕に向かって走ってくるのが見える

僕の胸にボンって彼女はぶつかり 跳ね上がった
前髪を上げて「ごめん」って言った

「何だいって」僕が訊きかえすと

昨日のクジラのことと それからカンガルーのこと
まだ みんなに「シーっ」てしててほしいの

彼女は僕の顔も見ないで
複雑な瞳の中に照りかえる光の
中庭に一面に広がる 青い芝生を

瞼の裏側に閉じ込める様に じっと
少しも動かないで ずっと うつむいたまま
黙り込んでしまった

中庭の中央に目をやると
さっきのカタツムリがアルマジロに
グゥーでみぞおちあたりに 軽くボディーブローを入れる真似事をしている

「アイツ等 飲みすぎなきゃいいがなー」と
誰かが僕の後ろで 肩に手を置いてそう言った

振り返ると
あの背の高いカンガルーが スモークを斜に咥えながら
煙たいものを 僕の鼻の頭に 
プッハーと撒き散らすように吹きかけいく

カンガルーの
彼の目の奥の表情は 濃いサングラスの中で 何を見ているのかしれなかった
ただ お腹のポケットの端っこから サラダ油がヒタヒタと零れ落ちる音が
乾いた音で 芝生を鋭角にヒタヒタと叩きつけていた

文学極道

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