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作品 - 20060322_384_1079p

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アンドロイドのアーリー

  ミドリ




晴れた午後の
プールサイドに僕らはいた

ここの海岸は砂が白く
夏の一時期
それなりに賑わうのだけれど
町には人が少ないのだ

仕事場にはチャリで通っている
いつも真帆ちゃんという
同僚を後ろにのっけて
急な坂道をうんと強く
お尻を上げ ぐいぐい踏み込んでいく

真帆ちゃんは35歳で
いつも浮かない顔をしていて
ときどき笑うときも
少し首をかしげる癖がある
でもその腫れぼったい目は
どうやらいつも 寝不足のようだ

仕事場には
アーリーという
マンチェスターのアンドロイドがいて
僕らはほとんどこの3人で
野菜の出荷をしている

真帆ちゃんはお昼休みには
決まって焼却炉の近くにある
クローバーの咲く場所があり
そこでいつも一人でお弁当を広げている

アーリーと僕は
近所のコンビ二までチャリで行き
お弁当とお茶を買い
海の見晴らせる高台で腰を下ろし
しばしそこで物思いに耽る

アーリーはお昼ご飯を食べた後
いつもタバコを一本吸い
そして仰向けになってぐぅぐぅ寝てしまう

僕は額のジトッとした汗を拭いながら
両腕に軍手をぎゅっと嵌める

そして持ってきたドライバーで
寝息を立ててるアーリーを分解し始めた
一つ一つネジをほどいていく
30分ほどでアーリーは胴体だけになった

肝心の首を取り外すのに
少し手間取りはしたが
一時間もすれば
アーリーはただの部品の
鉄くずの山になった

解体したアーリーを
リュックにぎゅうぎゅうに詰め込むと
僕はチャリに乗り
町に一つだけあるプールに向かった

夏の避暑地になっているこの町の
観光客とちらほら すれ違いはしたが
誰も僕に奇異な目を向ける者はなかった

プールに着くと
真帆ちゃんがいて
潮風に長いフレアスカートを翻しながら
セミロングの髪を押さえ
「ほら」って
四葉のクローバーを僕の鼻先にツンと差し出した

ガチャガチャと鳴るリュックを肩に担ぎ
真帆ちゃんの手を引っ張って
コンクリートのプールサイドを歩いた
僕ら汗ばんでいた
真帆ちゃんはなぜかしら空を見上げている

きっと失望よりも安堵にに近いんだろう
この町に存在する
最後のアンドロイドの アーリーを
真帆ちゃんとふたりで
もう使われなくなったプールの水底に
「ドボン」って
リュックごと思い切り沈めた

ブクブク泡立つ気泡が
水面に消えるのを待って

ふたりはチャリに乗り
再び仕事場に向かった

いつもよりうんと強く背中にしがみつく
真帆ちゃんの腕の力が
なんだか愛らしくってさ そんでもって
とっても痛かったよ

文学極道

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