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作品 - 20060228_933_999p

  • [佳]  花嫁 - りす  (2006-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


花嫁

  りす

貸し出されたまま行方が知れない花嫁。
かつては箱詰めにし風呂敷に包み贈与され集落を循環していたが、やがて在庫の
滞留が起こり幾千ものコンテナに詰め込まれ港から貨物船へ運ばれ海を渡った。
船倉から夜通し聞こえる花嫁の華やいだおしゃべりは二段ベッドの船員たちを朝
まで眠らせなかった。花嫁は五大陸すべての港に上陸し、街角にあまねく行き渡
り全ての男子は母から生まれた途端に花嫁とすでに結婚していた。ショットバー
で隣り合わせた頭が良すぎて使い物にならない女は花嫁であり、遭難した雪山で
首を絞めてとどめを刺す救助隊は花嫁である。花嫁が巷の話題にもならなかった
のは、語り部たちが臆病なレトリックによって脱がすよりは重ね着させることを
使い捨てるよりは再利用することを街灯の下の薄闇から絶えずしたたかに説いて
いたからだ。食卓にそそぐ柔らかな光のように花嫁は家屋を侵し夜になれば一人
ベランダに立ち帰る場所があったかのような眼差をしている。花嫁は回収されな
ければならないが、期限を決めなかった契約は果たされるはずもなく、貨物船が
積んでくるのは花嫁が趣味で書いた遺書ばかりだ。遺書は花嫁から花嫁へチェー
ンメールのように繋がり、花嫁たちの感度を均一にならしていく。
             一斉にヴェールを脱いで世界を裏返す日のために。

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