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作品 - 20060207_664_954p

  • [佳]  驟雨 - 樫やすお  (2006-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


驟雨

  樫やすお

冷たい雨滴を吸い、縁の下には昔のままにスニーカーが投げ捨てられてある。苔むした石畳の崩れ目に落ちていた懐中時計は私の耳朶に鈍く縋りつく。
その秒針の音の底澄みに、凍えた男の濁声が執着していた。彼女の足音だけが鋭く露を刺し、頬から多くの瞬きが零れた。

私はそわそわして木の皮を梳っている。

橋桁のそばで捨て犬が鶏の脚を銜えて佇んでいた。暗闇に、その双眼の潤いが脆く像を繋ぎとめ、空獏を見つめている。

公衆トイレの窓
堀の中に飛び込んだカラスが
溺死し
月は揺する
極度に緊張して柔軟性を失い
舌が
闇の中で湿りつく

墓石は空間に重くある。
人々は知らず顔で、トタン屋根の貸家をとり壊すことにいつまでも夢中だった。夜風の中に、剥がれた茜色の塗料は川面を底深く沈み、貧しげなフナに呑み込まれて重量を失った。

土臭い残雪にぽつぽつと
足跡を辿ると
カーテンのほつれ目に
青白くヒヤシンスが湧き出した

私はその軒下で雨止みを待っている

夏にできたつばめの巣には、生きなかった卵が残っていた。その一つを手にとって握り潰すと、枯れた粘液が硬い手首を伝って、袖口から私の体温を貪った。

文学極道

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