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作品 - 20060126_519_931p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


東京で暮らす君への手紙

  ミドリ



君は多分 いまキッチンで
3時間保温した炊飯器の中から
おばあちゃんが出てきたものだから
きっと驚いたことだと思う

しかもジャージ姿で
NHKの朝のラジオ体操を
踊りながら出てきたものだからね

それもそのはず
それはまだ君のよく知らない
君の父方に当たるおばあちゃんなのだよ

僕もおばあちゃんを
うっかり炊いたままにして置いたことを
君に謝るよ

しかし昨晩
君が和式のトイレに流してしまったものも
また君のよく知らない
君の母方の方に当たるおばあちゃんなのだよ

君はまたいつもの癖で
いま僕の手紙を
ハイライトに火を点しながら読んでいるここと思う
しかしいま
君の部屋の片隅に流れていった
あのベージュのカーテンの袖に隠れていった紫煙も
実はまだ君のよく知らない
父方のおじいちゃんなのだよ

そして君がこれからバイクで向かおうとしている
コンビニエンスストアの
駐車場にあるコンクリート製の車止めも
実は母方のおじいちゃんであることを
よく覚えていて欲しい

君が家賃4万円のアパートで
一人暮らしをしたいと言ったとき
僕はいつもそのことを考えていた

君が僕の家から出て行ったときに履いていた
あのスニーカーのゴム底で
いつもしっかりと
君の故郷を踏みしめていられるようにと

僕は東京タワーのてっぺんから
僕と君を生んだものたちの記憶について
まるでポリバケツでもひっくり返すみたいに
すっかりとばら撒いておいたのだよ

文学極道

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