1 試作
a
巨大な高架を支える橋脚の柱石に
落ちている赤いライターを
右折車線の窓外に見る
(あっちの崖でさ)
(うん)
(あの山の、海に突き出してる・・・)
下校する高校生 ベビーカーを推す女を
田舎の道で
フロントガラスの向こうに見る
(一番大きい?)
(そこらしいよ)
(じゃーあれ嘘だったんだ)
ガード下のうらびれた公園の脇に落ちる階段
その真裏の支柱を背に車を停め
買ってきたハンバーガーを食べる
(多分)
(あたし海いきたいなー、家やだ)
(あの崖のカーブ、海に突き出した・・・急な)
夕暮れの空に カーステレオが鳴る
ホルダーのシェイクに手をつける
空席のナビシートには目を遣らない
(いこうよ)
(海?)
(うん)
夜 山麓を川沿いに抜ける国道を走る
あの時と同じ景色
もう一度 海へ
(行こうか)
b
川?
うん
川沿いなんだな
(黎明の野に鬱勃する森の影
遠景の稜線に朝陽が留まる
静止した分暁の空)
暗いねぇ
夜の山だから
んー
(女は森へ その歩行に呼応し湧出する大理石が
彼女の蹠を受け止める 歩揺する長い黒髪は
その一揺れに束と落ちる)
やばい眠い、危ない
川がきれいだ
(女を追う 大理石の経路には
瘢痕に蝕まれた肢体の残片が
縷々と連なり重なっている)
見えるの?
ううん
ん?
(ウッドソールと大理石の衝突に
明滅する言葉らが、
足元に散る肉塊を整複していく)
見えないけど
どっち
きれい
(歩一歩と 致命的な歩み)
c
色石を展べた渥美の肌に
とりどりの華辞が彫金される
(ここはシルバーでなく
イエローゴールドで)
削りだされる浮文の四肢に
恍然と浅笑する女
(シトリンを埋めて 半貴石がいい
濁った石が好きなの)
肉体を失った言葉の幽霊が
逸遊する この際涯
(虚辞の海風がまた私の肌を磨く
この石も あの風も 一体誰の言葉なのだろう)
圏点を打たれた黒髪が号してる
シフォンの海 鉄の海畔 布と金属の海景
(でも、どうしよう)
2 君へ
いつか、あの女との海へのドライブを、
記憶の捏造によって再開する為に。
そして君と、
意識の上に偽造した世界で再会する為に。
そう思っている。
選出作品
作品 - 20060125_509_930p
- [優] ジルコニア - 椎葉一晃 (2006-01)
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ジルコニア
椎葉一晃