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作品 - 20051229_015_864p

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ONE LINE(TWO STYLE)

  ケムリ

星空の下の教室で黒板に書かれた動詞活用は一つも理解出来ない。アンダーパスを燃え上がる男が歩いていく、目が覚めたらバースデイケーキになって飛び去っていくような目つきで。三角眼鏡でスーツの女は黒板に教鞭を叩きつけ、それをあらゆる国の子ども達が見ている。俺以外の全てが新しい言語で語り始めようとしているのに、未だに俺はそれが理解出来ない。月からチェロキーが落ちて来て、鉛筆の刻みは数え切れず、爪楊枝理論のすみっこにしがみ付いて男はアンダーパスを歩いていく。ありふれたモチーフ、月が食まれていく、椅子を斜め倒しにするのは危ないとパキスタン国籍の少年に語りかけるが、もはや誰も黒板からは目を離そうとしない。

ずぶ濡れのドレスで女の子が踊っている。
あるいはそれは転調の合図だった
世界は確実にコード進行を違えて
俺は星を見上げるが もう誰も見上げない

燃え上がる男がアスファルトと抱擁する傍で、左利きの猫が深海魚を食べている。誰か踏み鳴らせよそのバスケットシューズで、あるいは土踏まずの深い柔らかな足で、踏みつけないでくれその従順さで、スーパーノヴァについて馬鹿馬鹿しい話をしよう、チェロキーのエンジンにこっそりジッポ投げつけて。昨日までハッシシを売っていた男がコーランで暖を取り、ドラムカンにはナンが貼り付けられていく。チョークの粉が焼けた男の唇だった場所に注がれ、俺は葡萄酒の不在に涙する。

星を隠そうとする掌が
あるいはそれを優しさとしているような
女の子はずぶ濡れのドレスを広げて
子ども達の消えた路地裏で 俺は独りでそれに拍手を送った

子ども達の指先が一つになっていく、引き剥がそうとするのは俺一人で、男は立ち上がって家への道を思い出そうとする、しかし猫の尻尾は相変わらず鍵形に折れていて、子ども達はどうしてもそれに触れたくて仕方がない、良く見てみれば女のスーツは微細な繊維で縫い合わされてそこには鉛筆の通る隙間はなく、あるいは俺が生まれて来る余地さえない。

造花の消臭剤が星を吸い込んでいく
避難標識を探す燃える男の群れ
あるいは解けていきたい人々の
教育はいつも夜に行われる

ガイドラインを女は宣言し、教鞭の先端で俺の左の目をつきぬいた、気づけば男の子のミサンガは全て切り離され、相変わらず俺は時代遅れで、動詞活用をノートに纏めたいのに鉛筆の論理はいつも破綻している。燃え上がるチェロキーの左ハンドル、そして抱擁を続けても消えない炎、あるいはバースデイケーキになって四つ割にされた月まで

文学極道

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