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作品 - 20051209_722_814p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


残酷!怪人スミレ女(愛と哀しみのMr. チャボ)

  Canopus(かの寿星)

ふたつ先の しずかな私鉄の駅でおりて
ふたりは歩いた チャボとスミレ
おだやかな秋の風がふいていた

さほど高くない丘を見上げるように
さほど広くない その公園はあって
まばらな紅葉が申しわけ程度に秋の日を染める
人出は意外に多く ひびく子どもの嬌声
路駐の車の迷路に挟まれそうになって
ふたりして頭を ひょこ と上げ ほほ笑み合う
空いているベンチが見つからないまま
ふたりは歩いた

チャボの差し出した右手に
さりげなくスミレが寄り添う

スミレがチャボのオンボロアパートに越してきて
挨拶がわりに 切らした醤油を借りにきた
お礼といってはなんですが 豚汁の差し入れ
弁当をつくってもらった時は感激した
メザシをめぐる 小谷少年との壮絶な一騎打ち
スミレの部屋でふたり ソーメンをすすった

「食べ物の思い出ばっかりだなあ」
「だってチャボさん いつもお腹すかしてたから」
「泣いて歓んでたっけ 俺」

ふたりは 仔犬のように
黄色がかった芝生を走り回らなかった
林のどんぐりを拾い集めなかった
裸足になって足を池にひたしたり
寝っ転がって空をながめたりしなかった
ふたりは歩いた
さほど広くない公園のおなじ道を
ぐるぐるぐる 何回も 何回も 何回も

そしてこれからのことは 一言も語り合わなかった

ふたりは歩いた
おなじ改造人間 手と手をかたく組み合わせ
ふたりは歩いた チャボとスミレ
おだやかな秋の陽が ただただふたりを照らした

今日は どうもありがとう
さほど高くない丘のてっぺんで
ふたりは見つめあう
スミレの頬が上気しているのは
瞳が潤んでいるように見えるのは
夕陽のせいだろうか
チャボの表情は翳になってて分らない

じゃあ
チャボとスミレ 絞り出すような声で

闘おうか

文学極道

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