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作品 - 20051119_378_753p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「架空」 #2

  鈴川夕伽莉

両親にマッサージチェアを贈った
家電屋が無料で配送してくれた
父母からのメールはひとしきり喜びを伝えたあと
「そういえば○○郡はもうないのだよ
これから間違えないように」と結ばれた

私が町を離れて7年目か8年目かに
○○郡は地図の上から姿を消したのだった
そういえば
今はわりと有名な温泉街の市名で呼ばれているのだが

私の中には
そんな場所で育った記憶は
ひとつも見つからない

変わってゆくものがあるとするならば
それは町そのものではない私自身だろう
両親は名前が変わっても
たいして中身の変わらないことを知っている
私にしてみれば
ふたたび住むことのないであろう町が
架空に飛んだらしい
おそらく

○○郡は
そう呼ぶ人間の居なくなってから
もと○○郡であった山間の空に
ラピュタのようにずしんと浮いている

ふたつの川がひとつに流れる橋のたもとには
夕暮れがまっさきに山の影を落とし
どこよりも早い夜が訪れる
今度町に帰る時があれば
ひんやりと蔦の這う道のりを
久しぶりに自転車で渡ろう
夜の中からむこうの夕方が
焼けていくのを眺め
その最後の吐息を聞き逃さなければ

スクール水着で川に浸かる私が
真っ黒な顔をきらきらさせながら
ラピュタの上から手を振るのに気付く

文学極道

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