夜中に水槽からなんやらこぽりぽこりと音がしよるし
なんやろ思うてよう耳澄ましたら
アロワナというそれは立派な金の鱗を持つ御仁が
うちなんぞに向かって話しはるお声でした
アロワナの御仁が仰るには
「お前さんはもう長くないね、三日ももたぬ。」ということでして
うちは阿呆みたいに「三日ですか、三日ですか」と繰り返して
あのお方は「ああ、きっかり三日であるね」と深い声でしっかりと仰ったのです
うちはあわてて葉書に筆に墨を用意して
ご親切にしてくれはった数すくない方々へ
あの時はお世話になりました、だの
あすこでもいちどあんみつ頂とうございました、だの
今生の別れの言葉を
丁寧にそれは丁寧に認めていきました
真心をこめて
そうしとる間に三日なんぞあっと言う間に過ぎよりまして
とうとう三日目のお天道さんがのぼりはりました。
その朝の光に、あのお方の鱗の一枚一枚がきらきらと金色に光り
あのお方は静かにただゆうるりと水槽の中を一回りしはったようです
うちはなんやら急にぽとり、からりと落ちてしもて
木ぃの根元で死んでしまったようでありました
遺言として
うちの自慢の透明な羽根についてはどうか召し上がらないでくださいと書き
願わくば水槽から良く見えるところへ運んでくださいなと書きました。
蟻の方々がそうしてくれはったかどうかは
うちにはもうさっぱりわからへんのですけど
明日またお天道さんが登りはるころ
その朝の光に、あのお方の立派な立派な鱗のようにみごと金色に輝けたら
ええなぁとおもうたんです。
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選出作品
作品 - 20051109_118_715p
- [優] 蝉 - ざくろ (2005-11)
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ざくろ