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作品 - 20051102_971_689p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


手のひらに明ける朝

  まーろっく

すべての人に手紙が届く朝
町の広場に男の手が屹立する
腕まくりをした生きた像だ
むろん何かを掴もうとしているが
それが何だったか
もう男の手は忘れている

それにしてもなんと汚れ果てた手だ
びっしりと溜まった爪垢が
 モーターオイルを吸って真っ黒だ
関節の皺、手のひらの微細な模様も
 薄墨色に染まって浮き出している
しかもなんという悪臭!
手淫をしたのだろう
油脂と精液がまじった機械と人間の
不埒な交合の匂い

レジの娘の空白の横顔をかすめて
男の手は書棚の雑誌を汚染する
ウエイトレスの純白の尻をなぞりながら
男の手は紙ナプキンに油のしみを作る
ショッピングモールに陳列されている
 食器の艶やかな肌
処女の匂いをたてている
 木綿の真新しいタオル
男の手は町のすべてを汚して回る

ネジをまわすネジをまわす
錆びた金属が擦れあってたまらない音をたてる
剥き出しになる金属の新鮮な地金
みな目をそむけ耳をふさぐ
その間に男の手は真っ白い少女の陰部の
 赤々とした裂唇に触れ
陰核からベアリング玉を揉みだす

誕生の喜びのない朝
油まみれの馬小屋から
男の手は組み上げたバイクを引き出し
エンジンに火を入れる
町外れから駅まで真っ直ぐな一本道を
バイクの咆哮が突っ走る
ビルの外壁や商店のシャッターを叩いて

アクセルを握り締めた男の手からは
真っ黒いオイルがしたたり落ちる
それは絶望の完璧な球体をしたしずくだ

文学極道

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