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作品 - 20051029_865_675p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


流星雨の夜(マリーノ超特急)

  Canopus(かの寿星)


海上を突っ走るマリーノ超特急は
どこまでも青い廃虚やら波濤やらが
混じりあったりのたうちまわったりで
車輌の隙間から
夜が入りこんでくる頃には
俺もアンちゃんもいい加減しょっぱくなる。
こんな夜にはどこからともなく
子どもたちの翳がやってくるんだ。
ひとり またひとり。
いつしか客車は
子どもたちの翳でいっぱいになる。

客車の最後尾は
夜になっても灯りが点らない
俺とアンちゃんは
錆びた義肢がやたらに疼いて
この時刻にはすっかり眼がすわっている。
痛みはアルコールで散らすのが
大人のやり方
子どもたちの翳がやかましくてしずかで
どうしようもない星空だ。

あ 流れ星。
夜空にまんべんなく降り注ぐ流星群に
子どもたちの翳は歓声を喚げる。
また流れ星。またまた流れ星。
天をつらぬく光線はそれにしても多すぎて
ケムリがのぼりそうなくらいの勢いだ。

夜空に投影される子どもたちの翳。
祈りはとどまることなく続けられ
流星をすくおうと両手を伸ばして
さっきまで暗やみに泣いてたカラスが
どいつもこいつも
瞳を輝かせて笑っていやがる。

ああ そうだ。

俺もアンちゃんも知ってるんだ
こいつは流れ星なんかじゃない。
空にかつてひしめきあった人工衛星のかけら
そいつの迎撃に発射されたミサイルのかけら
遠いそらの向うで繰り広げられた
過去の無色な戦闘の成れの果て だ。
そいつらが毎晩のように地上に降り注ぐ。

ぼくの手みつかんない。もげちゃった。
ママ どこ? ママ?

アンちゃんが眼を閉じたままつぶやく。
ごめんな。
どうやら俺たちはお前らに
世界をそのまんまで渡す羽目になっちまった。

歓声が遠のいていく。
流星雨がやんで
子どもたちの翳は
騒ぎ疲れて眠りにおちる。
ひとり またひとり。
冷蔵庫のような体型の車掌が入ってきて
窮屈そうに背中を折り曲げながら
眠った子どもたちの翳ひとりひとりに
一枚づつ毛布をかけていく。
子どもたちの翳は
夜に暖められて消えていく。
ひとり またひとり。

車掌が子どもたちの翳にちいさな声で
抱きかかえるように
なにごとかささやきかけるが
よく聴き取れない。

文学極道

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