七月の雨、
アルバイトの休日、
自らの髪をかきあげる。
爪から指の間に、流れる。
部屋には、青い光の点滅がある。
わずかに開けた窓からは、水の音がする。
身体を曲げて、寝返りをうつ。
手を伸ばし、コロンのビンをとる。
なめらかなビンの感触。
指をからめる薄い幅の形。
青いコロンを、
胸にかけ、手を床に落とす。
微かに霧が、空中をただよう。
白いカーテンから、もれるのは、ぼやけた光。
テーブルの上の、水槽に、
一匹だけの、ベタが、
長いひれを、ひらめかせて、青い。
水草の気泡がゆれる。
ガラスのケースに、水滴がついている。
外は雨音。うたたねを繰り返す。
自分の肌に頬をつけ、
寝返りをうつ。風がある。
ベタが水面から空気をとるため、
顔をだす。
ゆっくりと、息をして、
水槽の底に沈む。
ほかのベタと一緒だと、
一匹になるまで争う、
闘魚。
水草に隠れて、
泡だけがこぼれるように、
水面に向かい、小さく壊れていく。
目を開けると、外は夜の激しい雨。
わたしは、自分の肩を抱いている。
先日の、入庫のアルバイトで、
知らずに痛めた肩が、はれている。
フロアで、
わたしと視線を合わせる女が、ちらつく。
(何でわたしを見る)
喉が渇くので、
氷水をつくりに部屋をでようと、
ベッドから起き上がる。
そのまま、腰かけ、
息を吐く。
指先で筋肉のほてりを押さえる。
肩からしびれる指先までの、
輪郭が、青い光の点滅で浮き上がる。
拳を握る。
窓から雨が降り注ぎ、床にはう。
わたしの夜の、静かな、沈黙。
足元が濡れている。
女の形の水草が、頭を上げる。
足首をつかむのは、
あふれてくる、水草の手。
腰に、水草の脚があたる。
わたしの肩に、水草の腕がまわる。
わたしの首に、顔をうずめる。
唇の形を確かめたく、
わたしは、水草のあごに指をかける。
紅に塗られた輪郭に、爪がすべる。
水草の目を見つめる。
水草の透明な瞳を通して、
夜の風だけが、覗ける。
ひんやりとしたコロンの、
ビンの中に、
わたしはやがて、閉じ込められる。
指をからめられ、
水草と結ばれるように、
長いひれをなびかせて、
水面から顔をだし、
わたしは、息をするために、歯を見せる。
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選出作品
作品 - 20051017_654_635p
- [優] 淡水魚 - 光冨郁也 (2005-10)
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淡水魚
光冨郁也