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作品 - 20051017_654_635p

  • [優]  淡水魚 - 光冨郁也  (2005-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


淡水魚

  光冨郁也

七月の雨、
アルバイトの休日、
自らの髪をかきあげる。
爪から指の間に、流れる。
部屋には、青い光の点滅がある。
わずかに開けた窓からは、水の音がする。
身体を曲げて、寝返りをうつ。
手を伸ばし、コロンのビンをとる。
なめらかなビンの感触。
指をからめる薄い幅の形。
青いコロンを、
胸にかけ、手を床に落とす。
微かに霧が、空中をただよう。
白いカーテンから、もれるのは、ぼやけた光。

テーブルの上の、水槽に、
一匹だけの、ベタが、
長いひれを、ひらめかせて、青い。
水草の気泡がゆれる。
ガラスのケースに、水滴がついている。

外は雨音。うたたねを繰り返す。
自分の肌に頬をつけ、
寝返りをうつ。風がある。

ベタが水面から空気をとるため、
顔をだす。
ゆっくりと、息をして、
水槽の底に沈む。
ほかのベタと一緒だと、
一匹になるまで争う、
闘魚。

水草に隠れて、
泡だけがこぼれるように、
水面に向かい、小さく壊れていく。

目を開けると、外は夜の激しい雨。
わたしは、自分の肩を抱いている。
先日の、入庫のアルバイトで、
知らずに痛めた肩が、はれている。
フロアで、
わたしと視線を合わせる女が、ちらつく。
(何でわたしを見る)
喉が渇くので、
氷水をつくりに部屋をでようと、
ベッドから起き上がる。
そのまま、腰かけ、
息を吐く。
指先で筋肉のほてりを押さえる。
肩からしびれる指先までの、
輪郭が、青い光の点滅で浮き上がる。
拳を握る。
窓から雨が降り注ぎ、床にはう。
わたしの夜の、静かな、沈黙。

足元が濡れている。
女の形の水草が、頭を上げる。
足首をつかむのは、
あふれてくる、水草の手。
腰に、水草の脚があたる。
わたしの肩に、水草の腕がまわる。
わたしの首に、顔をうずめる。
唇の形を確かめたく、
わたしは、水草のあごに指をかける。

紅に塗られた輪郭に、爪がすべる。
水草の目を見つめる。
水草の透明な瞳を通して、
夜の風だけが、覗ける。

ひんやりとしたコロンの、
ビンの中に、
わたしはやがて、閉じ込められる。
指をからめられ、
水草と結ばれるように、
長いひれをなびかせて、
水面から顔をだし、
わたしは、息をするために、歯を見せる。

文学極道

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