切られたり
刺されたり
ましてや
撃たれたり
したわけじゃないが
どうにも背中は傷だらけだ
新しい肉の盛り上がったのや
飴色がかった古いのや
妙なかたちの火傷のあとや
傷ばっかりが増えていく
それでいて口笛を吹いたりする
それでいて酔って歌ったりする
背中の傷がうずくから
うめきたいのを黙ってるうちに
やがて牡蠣殻やフジツボまでが
いまいましくも張り付いて
肩ごとずり落ちてしまいそうな
重さになる
それでも硬く押し黙っている
それでも皮を厚くしてこらえている
そんな背中がエスカレーターで運ばれてくる
階段口からよろめきながら溢れてくる
細長いプラットホームの空
この世の隙間から見上げるつかの間の朝
みないっせいに反った喉から声をもらすのだ
ひげの剃り跡をふるわせて
背中を脱ぎ捨てた声が昇っていくのだ
低く太い声が交じり合い、響き合って
地上の隙間から空に向かって
太古から続く生物の音声で
煤けた電車が狭い空を遮る
有無を言わさず押し込まれ
シュっといって缶に蓋がされる
また押し黙った背中の缶詰がガタガタと
巨大な工場に運び込まれる
きまった時間に
きまった量だけ
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選出作品
作品 - 20050919_018_532p
- [佳] 背中 - まーろっく (2005-09)
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背中
まーろっく