「南極はどっちの方ですか?」
訊いてきたのは四羽のペンギン
子どもとはぐれた午後遅い動物園で
南はたしかあっちだけれど
もし南極へ行くのなら北に向かって
近場の海に出るのが現実的かな
(そうだ海だ)(おゝ海だ)(海をめざそう!)
ぼくの言葉に反応するペンギンたち
だけど南極はけっこう遠いし
サメとかクジラとかクラゲとか
おっかないやつもうようよいるぞ
(船はどうだ?)(船に乗ろう)(密航だ!)
それでも盛り上がるペンギンたち
こんな地方の港からは
外洋に出る船などめったにいない
と言いたかったが言えなかった
たとえば超高速の台風のような
トラックが行き交う車道とか
津波のように人間たちの足が
押し寄せて来る横断歩道とか
どうやって抜けていくつもりだい
第一、きみらはまだ檻の中だぜ
(南極までの遠さを思えば
(それはささいな問題に過ぎません
(ぼくらは思い煩うのは苦手なんです
きみたちはすごいなあ、
なんでそんなに前向きなんだい
というぼくのこころの声は
まるで聞いていなくて
ペンギンたちは揃って
北を見ている
潮の香りでもしたのだろうか
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作品 - 20050914_930_517p
- [佳] 午後のペンギン - 蛙の庭 (2005-09)
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午後のペンギン
蛙の庭