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作品 - 20050912_885_508p

  • [優]  せみ - まーろっく  (2005-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


せみ

  まーろっく

弥陀の内耳は夏空の高さだ
せみの声がわきあがっている
それはサイダーの気泡のように
空の青みを漂白していく

親不孝者は無花果の木の下で寝そべっている
母親は仏壇に供え物をし、花を飾る
焼けた赤い土の上で待ちながら
ふたりともひからびてゆくだろうか?

コップのなかのせみしぐれは念仏にかわっている
それは弥陀の頭蓋に沁みてはいるのだが
弥陀のまぶたは閉じたままだ
五劫のねむりをねむったままだ

僧侶は丘の楡の家か
森のなかの橡の家か
飛んでまわっているのだが
念仏するほどに死んでいくのだが
無花果の家は夕暮れの果てだ

 父さんの三度目のお盆ですね
 郷里のお墓は壊しましょう
 いっそ石も骨も粉にして
 撒いてしまったらどうですか?

庭先に落ちたせみは念仏の恍惚に踊っている
犬の前足と戯れているのは
ぬけがらにすぎない
隣家の打ち水にすぎない

僧侶はおそらく息子の親不孝をなじったのだ
正直で小心な母親に向かって
小さなからだをこれいじょうなく丸めて
念仏に聞き入っていた母親にむかって

空はおそらく赤く燃えていたのだ
僧侶は玄関の引き戸をあげて
薄い羽を広げて舞い去ったのだ
母親は何も見せもせず、知らせもしなかったが

 母さんあそこで燃えているのはお坊さんです
 燃えながら父さんのところへ落ちていくんだろうか?
 ああ、真っ赤だ。空もお坊さんも骸骨も真っ赤だ。

親不孝者が午睡から醒めてみると
庭でせみが動かなくなっている
もう蟻がたかっていて
せみの薄羽をはぎとっている

文学極道

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